出版社内容情報
序章
……本書の目的は、明治維新後の急激な変化が新時代の若い日本人の思想にもたらした衝撃を検討することである。われわれは新しい高等教育を施す西洋式の学校で学んだ日本人の最初の世代として、かれらが西洋文明に引きつけられていったことが、かれらの国民としての自我観念(セルフイメージ)にどのような影響をおよぼしたかに焦点を合わせることになろう。……
訳者あとがき
……本書は、刊行当時から広く注目され、米国の日本研究者を中心に大きな反響を呼んだ。それは、本書にたいする数々の書評にも如実にあらわれている。まず第一に、米国における近代日本思想史研究の展開という点から見ると、パイル教授のこの研究は、それまで明治維新に研究が集中していた当時の米国の日本研究の状況下にあって、明治中期という未開拓の分野、しかも近代日本のナショナリズムの方向性を探るうえに重要な時期を対象とした、いわば最初の本格的な考察であるという点で画期的な意義を持つものであった。とくに陸羯南や三宅雪嶺ら政教杜の思想家たちの思想は、彼の研究によってはじめて米国に紹介された。この研究が内包している、その後の日本思想史への展望を考えても、本書が米国の近代日本史研究を大きく現代に向かって導いたことは想像に難くない。
第二に、本書の内容については、日本の近代化にともなう、その担い手たちの内面的な屈折という、それまでの近代日本史研究がほとんど取上げることのなかった社会心理的な側面に光をあてたことが、各書評によって指摘されている。もちろん、背景としての社会心理的なレベルだけではなく、本書が民友社と政教社との間の論争、あるいは両者の主張の弁証として展開している近代化に関わる思想のレベルにおいても、本書は従来の近代化論にもとづく日本近代史研究とは異なる性格を持っていると思われる。……
……第三に、多くの評者が共通に指摘しているのは、民友社と政教社の思想家たちの数多くの論述の中から彼らの主張の論点を適切に選り出し、両陣営の論争と著者の論理展開を堅牢に組合わせた著者の論理構成の見事さと、そこから導き出された結論の明晰さである。このことは本訳書の読者も首肯されることと思われる。先駆性、視点・方法論の独創性に加えて、この点からも、本書が米国における日本研究の第一級の研究であることは疑いない。……
内容説明
明治中期に活躍した陸羯南や三宅雪嶺、徳富蘇峰ら思想家たちの内面的な屈折と、社会心理的な側面に光をあてることで、近代日本のナショナリズムの方向性を解明する。米国における代表的な日本思想史研究の本格的考察。
目次
第1章 新しい世代
第2章 明治青年と欧化主義
第3章 日本人のアイデンティティーをめぐる諸問題
第4章 国民意識の苦悩
第5章 条約改正と民族自決
第6章 精神的保証を求めて
第7章 国民的使命の探求
第8章 戦争と自己発見
第9章 日本の歴史的苦境