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出版社内容情報
核地獄を見た兵士たちの絶後の体験の生々しい証言!
1950年代、アメリカは来るべき核戦争にそなえて、多くの兵士を原爆演習にかり立てた。その数25万ともいわれる若者のなかに、ケリーとサッファーはいた。彼らの物語は、核時代の証言であり、黙示録でもある。
ネバダ核実験場は、ラスベガスの北西約104キロにあり、面積約3200平方キロに及ぶ。実験場入口の検問所に掲げられている看板には、「命が惜しければ黙れ」(Your safety depends upon your silence)とある。ジョージ・オーウェルの『1984年』に描かれている真理省の壁のスローガンのような警句の下、想像を絶する原爆演習の実態と、25万人ともいわれる原爆兵士(アトミックソルジャー)の苦悩がひた隠しにされてきた。アトミックソルジャーは「冷戦」時代の犠牲者ではあったが、彼らは、核の優位と核技術の推進が道義的責任や人間的価値に先行する時代の証人であり、この物語は「核時代」の黙示録でもある。
序 文 スチュワート・ユードル(元内務長官)
これは、二人の原爆復員軍人(アトミック・ベテランズ)の静かな怒りを刻み込んだ警告の書である。本書を最初に書き始めたオービル・ケリー元陸軍曹長は体じゅうをガンに冒され、今はこの世にない。この本を完成させたトーマス・サッファー元海兵隊大尉も犠牲者の一人である。彼は、この国が何年にもわたって行った新型核兵器の実験で“前線の塹壕”に配置された兵士に対する公正な措置を求めることに半生を捧げてきた。
本書は、核の優位を追求するあまり、常識的な防護手段さえ怠った性急な科学者や勇敢ぶった軍人らに対する告発であり、指弾である。また、十分な知識も与えられず実験に参加した兵士や民間人がガンなどの病気にかかったことを、アメリカ政府高官が三十年間にわたって組織的に隠蔽してきたことも暴露している。……
カウントダウン・ゼロ 目次
序文(スチュアート・ユードル)
プロローグ
1.巨大なキノコ雲の地
現場到着/三八キロトン/放射能除去
2.コブラ攻撃
不発/『フッド』/核実験の後/青い地平線を越えて
3.未知の楽園
遂に来たあこがれの地/ハードタック1/エニウェトク、エニウェトク/隠れる場所もなく
4.死線を越えて
転機/名誉回復
5.真実の道
膨らむ疑問
6.記念碑的な決定
拒否と回復/記念碑的決定
7.再会
何かが間違っている/悪夢/記憶だけは薄れて/公表された声明
8.カウントダウン・ゼロ
核兵器防衛/根拠/復員軍人局/治療は不可能/真実の表明
エピローグ
あとがきにかえて
本書を訳し終えて、私は「これはミステリー的ドキュメンタリーだ」という印象を強くした。 その数二五万人ともいわれるアメリカ軍将兵が戦後、二〇〇回を超える大気圏核実験で放射線に被曝し、各種の晩発性障害に悩まされていることは既に広く知られている。しかし、原爆復員軍人(アトミック・べテランズ)自身が赤裸裸な体験を生々しく記した記録は本書以外にはない。
ニューヨーク・タイムズ紙のブックレビューは「生命に対する政府の残酷さ、不誠実さ、軽蔑を明るみに出した痛ましい書」とその秀れた記録性を高く評価している。
しかし、単なるドキュメンタリーに終わっていないのが本書の特徴である。
全米原爆復員軍人協会(NAAV)の創設者として、今では伝説的な存在となった故オービル・ケリーが太平洋のエニウェトク環礁ジャプタン島で、NAAVの中心的人物として今も活躍し続けているトーマス・サッファーがネバダ核実験場で、それぞれ体験したすさまじい核爆発と核戦争の訓練。そして、ケリーのリンパ腺ガン、サッファーの神経筋異常の原因が被曝にある、と確信した後、彼らが国防総省国防核兵器局や復員軍人局(VA)を相手取って続けた闘い――と前半は劇的シーンの連続で、読む者をひきつけて離さない。……
1985年9月 春名幹男