内容説明
ラナルド・ガスリーはものすごく変わっていたが、どれほど変わっていたかは、キンケイグ村の住人にもよく分かっていなかった…。狂気に近いさもしさの持ち主、エルカニー城主ガスリーが胸壁から墜死した事件の顛末を荒涼とした冬のスコットランドを背景に描くマイクル・イネスの名作。江戸川乱歩は「非常に読みごたえのある重厚な作品」として世界ミステリのベスト5に挙げた。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
27
ウィルキー・コリンズの『月長石』は語り手が次から次へと語る。今回マイケル・イネスも挑戦!というわけで、最初の語り手は靴直しのイーワン・ベルが振られる。なぜ普段文章を書かないような人がトップバッターに?と思うが、どうやら彼は村の長老らしい。エディンバラの弁護士に「牧師と学校の教師の次に物知りなのは靴直しであることはこの教区ではよく知られたことじゃありませんか」とめっちゃローカルなお勧めをされて書き始めたのが、金持ちでどケチの変わり者ラナルド・ガスリーが死んだ顛末のうち、彼の家に訪問者があったところまでだ。2021/12/31
rinakko
9
イネス、読むのは3冊目。これも好きだ。荒涼たる冬のスコットランド、見捨てられたような古城で起きた墜死事件を描く。学者でありながら狂気に憑かれた如くさもしい日々を送る変人城主と、世間から遠ざけられて暮らすその姪(テンペストの父娘に譬えられるあたり皮肉)。ところが姪のクリスティンには秘密の恋人が…。代々不和の続くスコットランド低地の“家”同士の因縁話も絡んできたり、ネズミだらけの城が不気味だったり、そんな雰囲気もツボだった。“次の語り手にバトンを渡す”形式もよく効いている。謎解きにも最後まで驚かされ、堪能した2014/08/01
SIGERU
7
英文学の泰斗としても著名なマイクル・イネス初期の傑作。江戸川乱歩のベスト10にも選ばれている。雪に埋もれた古城を舞台にした殺人なのだが、そこは英文学教授のミステリだけあって文学の香気が高く、なかなか事件が発生しない。スコットランドの地方伝説や英詩人の引用などが蜿蜒と続き、きわめて衒学的なのだ。やむを得ず、伝奇ふうの味がある普通小説のつもりでこつこつ読み進んだ。だが、いったん殺人が発生し、名探偵アプルビイ警部が登場してからは一気呵成のおもしろさ。読了してみれば、やはり傑作だと得心した。2017/03/15
madhatter
5
再読。名作の名に恥じない作品。事件自体は最後まで固定されず、どんでん返しが繰り返されて気が抜けない。謎の核となるのは、ガスリーという一人の人間の内面と言えよう。確かに彼は非常におかしな人間で、彼を受け入れられるか否かで、本作の評価は変わってきそうな気がする。個人的には、彼の目論見の動機には、ある点では彼の弱さが露呈されているように思えて、哀れさをおぼえる。2011/12/03
kado
4
お見事!!前半はエンジンの掛かりが遅くて進まなかったが後半からは一気に面白くなりました。物語が進むに連れて現れていく数々の推理。そして見事な逆転の真実。傑作です。2013/03/02
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