現代教養文庫<br> 菜園家族レボリューション

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現代教養文庫
菜園家族レボリューション

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  • サイズ 文庫判/ページ数 207p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784390116459
  • NDC分類 611.7
  • Cコード C0136

出版社内容情報

 プロローグ

 モンゴル遊牧社会の研究をはじめてから、いつのまにか長い歳月が過ぎてしまいました。その間、草原や山岳・砂漠の遊牧民家族と共に生活し、一年あるいは二年という長期の住込み調査や、短期のフィールド調査をまじえながら、日本とモンゴルの間を何回も行き来することになりました。
 ここに提起される日本社会についての未来構想は、この両極を行き来しながら、風土も暮らしも価値観も、日本とは対極にあるモンゴルから日本を見る視点、そして、そこから生ずる何とも言いようのない不協和音を絶えず気にしつつ、長年考えてきたことが下敷きになっているのかもしれません。
 モンゴルの遊牧民からすれば、日本は「輸入してまで食べ残す不思議な国ニッポン」に映ることでしょう。本当は憤りさえ覚えているのかもしれません。高飛車に「あんたたちは、経済というものを分かっちゃいないんだよね」などと言って、世事に擦れた感覚に、薄汚れた常識を振り回し、せせら笑ってすませる場合ではないのです。
 話は前後しますが、こうした日本とモンゴルの間の長年の行き来の中でも、とくに一九九二年秋からの一年間、山岳・砂漠の村ツェルゲルでの生活は、日本社会のこの未来構想を考える上で、貴重な体験になっています。
 一九八九年のベルリンの壁の崩壊、それにつづく民主化の波は、内陸アジアの奥地モンゴルの遊牧地域にも押し寄せてきました。遊牧の集団化経営ネグデル(旧ソ連のコルホーズを模倣してつくられた組織)の破綻(はたん)の中から、伝統的遊牧共同体の再生への動きがはじまります。この中で、遊牧民たちは新たに降りかかってくる市場経済に対抗して、自らの暮らしを守るために新たなる“共同”への模索をはじめるのです。……

……今、深刻な不況と実に暗い閉塞(へいそく)状況の中にありながらも、耳を澄ませ聞き入る心の余裕があるならば、はるか遠い地平から幽(かす)かな響きではありますが、今までにはなかった未来への確かな足取りとうねりが感じとれるからなのです。そして、そのうねりの正体は、何よりも人々のひたむきな姿勢そのものであり、人間の尊厳を希求してやまない魂の叫びでもあるように思えるのです。人間を大地から引き離し、虚構の世界へと益益追いやる市場競争至上主義の“拡大経済”に、果して未来はあるのでしょうか。ここに提起する“大地に生きる”人間復活の唯一残されたこの道に、“菜園家族レボリューション”の思いを込めたいと思います。……

 悠久の時空の中
  人は大地に生まれ
      育ち
    大地に帰ってゆく

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文庫版へのあとがき

……“菜園家族レボリューション”。これを文字どおりに解釈すれば、菜園家族が主体となる革命のことを意味しているのかもしれません。しかし、“レボリューション”には、自然と人間界を貫く、もっと深遠な哲理が秘められているように思えるのです。それは、もともと、旋回であり、回転でありますが、天体の公転でもあり、季節の循環でもあるのです。そして何よりも、原点への回帰を想起させるに足る、壮大な動きが感じとれるのです。イエス・キリストにせよ、ブッダにせよ、わが国近世の希有な思想家安藤昌益にせよ、あるいはルネサンスやフランス革命にしても、レボリューションの名に値するものは、現状の否定による、原初への回帰の情熱によって突き動かされたものなのです。現状の否定による、より高次な段階への止揚(アウフヘーベン)と回帰。それはまさに、「否定の否定」の弁証法なのです。現代工業社会の廃墟の中から、それ自身の否定によって、田園の牧歌的情景への回帰と人間復活の夢を、この“菜園家族レボリューション”に託して、結びにかえたいと思います。……

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著者略歴
小貫雅男
1935年中国東北(旧満州),内モンゴル・ホルチン左翼中旗・鄭家屯生まれ。1963年大阪外国語大学モンゴル語学科卒,65年京都大学大学院文学研究科修士課程修了。大阪外国語大学教授を経て,現在,滋賀県立大学人間文化学部教授。著書に『遊牧社会の現代』(青木書店),『モンゴル現代史』(山川出版社),『異文化体験のすすめ』(共著,大阪書籍),『騎馬民族の謎』(共著,学生社),『モンゴル史像の再構成』(モンゴル語版,高槻文庫),『遊牧社会――現在と未来の相克の中で』(モンゴル語版,高槻文庫)など,映像作品に『四季・遊牧――ツェルゲルの人々』(大日)がある。

内容説明

巨大化の道の弊害と行詰りが浮彫になった今、その評価を問い小経営のもつ優れた側面を再考する。

目次

第1章 閉塞の時代―「競争」の果てに
第2章 「菜園家族」の構想―週休五日制による
第3章 大地に明日を描く
第4章 ふたたび「菜園家族」構想について
補章 『四季・遊牧―ツェルゲルの人々』をめぐって

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