出版社内容情報
福田 清人[フクダ キヨト]
編集
石橋 とくゑ[イシバシ トクヱ]
著・文・その他
内容説明
足かけ五〇年に近い年月を、明治・大正・昭和の三代にわたって、ただまっしぐらに書き続けてきた花袋の底に張られる強力なる線、それは「無類の正直さ」であろう。かれは、人生の奥底を、正直な目で見つめ、自己の欲求を正直に示して、その生涯を貫いた。それは、ときには利己的にも見え、愚直に見えたかもしれない。しかし、かれが自己を愛し、そこから自己の一部、いな、全てである自然主義小説、宗教小説、歴史小説、紀行文が生み出されたとき、それはより次元の高いものへと昇華されていった。その全てが、花袋の血であり、肉であり、真実の声の吐露である。死して八〇年余。利根川のほとりを歩むとき、かれの作風のいまだ新鮮なるに驚きの声を発するのである。
目次
第1編 田山花袋の生涯(没落士族;上京(一)
悲しみの館林生活
上京(二)
三度の館林生活 ほか)
第2編 作品と解説(重右衛門の最後;蒲団;生;田舎教師;時は過ぎゆく ほか)
著者等紹介
福田清人[フクダキヨト]
1904(明治37)年長崎に生まれる。1927年東京帝国大学文学部国文科卒。立教大学教授をへて、実践女子大学教授、日本近代文学館常任理事を歴任。1995年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kenitirokikuti
10
日本文学上の「自然主義」つうのはよく分からんかったのだが、ある程度つかめた。明治20年代までは紅露時代(尾崎紅葉と幸田露伴)。春陽堂書店の「新小説」の明治39年に漱石『草枕』、明治40年に田山花袋『蒲団』。▲「蒲団」収録をした単行本は、初出の雑誌の版元とは別の書店だったのだが、そこで版権をめぐって裁判があったそうな。結果として、著作権は版元でなく著者にあるということになった。印刷の工程がいまと全然違うだろうから、このへんはそこを抑えないといけないのだろうな。2019/02/10
渡辺 にゃん太郎
0
実際に館林で遊んでからこの本を手に取ったので現地の里沼の情景を浮かべながら読むことができた。今でも残る館林の原風景が小説に反映されていると思うと何だか感動する。田山花袋が紅露時代に続く自然主義の大家でありながら、最後は後進に文壇を明け渡すところに諸行無常を感じた。この空しさは花袋の作品に通じるところがあり、花袋の人生自体が花袋の小説のようだった。現地では花袋の記念館より隣接する向井千秋の科学館の方が人気だったけど、日本の文学の開拓者として後世に伝えるべきだし、機会があれば多磨霊園に墓参したい。2023/12/03