内容説明
「ほっほう、ほうやれほ」青と澄んだ空の彼方から、きょうもウォルト・デンジャーフィールドの声が流れてくる。ただひとり衛星に残された男のディスクジョッキイ。もはや地上には帰れない。かれこそ、滅びかけた人類の頭上に瞬く、かすかな希望の灯だった。沈黙と激情、憂愁と滑稽が交錯するディックの黙示録。腹腔に弟をやどらせた幼女は、処女懐胎の寓意であるとともに、早逝した双子の妹に捧げたディックの鎮魂歌かもしれない。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ニミッツクラス
31
87年(昭和62年)の680円のサンリオSF文庫初版。地球の周回軌道に残る火星植民船の乗員は男一人だけ(配偶者死亡)。地球へ帰還する術もなく、地表からの電波を拾い情報を再送信し、手持ちの音楽を流してディスクジョッキイをやっている。地表は2度の核災厄で一部の田舎を除いて悲惨な状況。こんな設定ならディックの独壇場だ。ミュータントやら奇形やら生き残りの愛憎やらでかなり満腹になる群像劇。それでも文学としては昇華してない。05年に創元SFより「ドクター・ブラッドマネー/博士の血の贖い」と改題新訳で刊行。★★★★☆☆2024/12/03
Valkyrie
6
【図書館本】1964年の古いSFだけど面白く読めた。さすがはディック。衛星軌道から地上への核兵器攻撃は事故か狂人によるものか?多くの奇形児の出生と追い打ちをかける兵器の暴走による世界の終焉。そんな激変していく生活にも飄々と順応していくマッコンチーがいい味だしてる。後書きでブラッドマネー博士は「はずれた予言」とディックが言っているが本当にはずれたのだろうか?ブルトゲルト博士なのになんでブラッドマネー?とWikipedia見たら「被害者家族への慰謝料、賠償金」とあるのでこれだな。2022/03/28
スターライト
3
大気圏内での核実験とそれに続く核戦争により、地球は壊滅的打撃をこうむる。生き残った人々を励ます人工衛星内に取り残されたディスクジョッキー、手足のない不自由な姿にもかかわらず、驚異的な念力を持つホッピイ。二人に励まされ、あるいはその力に恐れながらもたくましく生きる人々を描く、60年代の作品。しかし、ディック一流のサスペンスなどはあまり感じられず、ちょっと肩透かし。作中はブルトゲルト博士なのに、どうしてタイトルはブラッドマネーと英語なんだろう?2011/05/23
丰
0
Y-202007/05/09