内容説明
夏休みのあいだ、祖母の見舞いにイギリスのホスピスをたずねたウィーンの少女ニッケルは、同級生の少年フェーリクスに手紙を書きおくる。死を前にした患者ばかりのこの病院で、目に映るもの、耳に聞くことばをすべてためておいたら、わたしの胸がはりさけてしまう―。だから、お願い、聞いて。悲鳴にも似た一通めから、ウィーンにもどる前日の四十通めまで、その日その日の出来事をつづりながら、彼女は人の生と死について、真剣に考える。この病院で得たものが、自分のこれからの生きかたにも、大きくかかわることを予感しながら。大事なことには時間をかけなければ。いま、ニッケルにはこの言葉の意味がわかる。時間をかけて「死」を大事にするとは、のこされた日々を命の喜びでみたすこと。この世のどれほど小さなものにも目と心をひらき、たどってきた人生のすきまをうめて、自分自身の「生」を完成させること。