内容説明
病床で朝から粥や菓子パンを貪り食った正岡子規。旅する際に出迎えを断り、しかし「リンゴ酒と、それから蟹だけは」と所望した太宰治。食堂車のメニューに「『ソップ』(スープ)がない」と興味深げに綴った内田百〓(けん)。作者が意図したか否かは別にして、小説や随筆に描かれる食の風景が、物語の隠れた主役になることもある。本書は作品を手がかりに、江戸、明治、大正、昭和と、日本人の食文化がどう変遷を遂げてきたかを浮き彫りにする。
目次
紅ショウガの天ぷら―織田作之助『夫婦善哉』
菓子パン―正岡子規『仰臥漫録』
お好み焼きの誕生―高見順『如何なる星の下に』
すし―志賀直哉『小僧の神様』
牛鍋―夏目漱石『三四郎』
戦時下の食―古川緑波『ロッパの悲食記』
ヤミ市―田村泰次郎『肉体の門』
白米と脚気―和田英『富岡日記』
缶詰生産―小林多喜二『蟹工船』
鮫と鱶―内田百〓(けん)『御馳走帖』〔ほか〕
著者等紹介
野瀬泰申[ノセヤスノブ]
1951年、福岡県久留米市生まれ。日本経済新聞特別編集委員・コラムニスト。東京都立大学法学部卒。75年、日本経済新聞社入社。社会部、生活情報部などを経て文化部編集委員。「B‐1グランプリ」創設メンバーのひとりでもある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
くぅ
45
ふろんたさんのレビューから興味をもって読んでみました。これは面白かった!文学作品を起点に食の風景や歴史、ルーツを紐解く。全部興味深かったし、初めて知って勉強になることも多々あったけれど、中でも小島政二郎のぜんざいとお汁粉の話とか内田百聞の食堂車からの話、あとは山崎豊子の暖簾と獅子文六のてんやわんやからの出汁の話が面白かった。芥川が好んだという白あんの小倉あん…みたこともないし食べたこともないけど、なんだかすごく美味しそう!ホントにこの本、もう少し皆んなに読まれてもいいのにね。2018/02/26
ホークス
40
文学の中のご馳走にまつわるエッセイ。お好み焼きは浅草で「重ね焼き」として発祥。関西の「まぜ焼き」が後から出て浅草より目立ってしまった。江戸前寿司の全国化は、戦後の食糧難と飲食店規制がきっかけ。東京の寿司組合が「委託加工業者」として米と寿司の交換を許可され、日本中で江戸前が増殖した。小島政二郎は汁粉を食べる芥川龍之介を観察し、「睫毛が長くて、黒い瞳が深々と湛えて美しかった」と書く。ゾクっとする一文。家庭内身分制の温床である銘々膳を廃し、チャブ台で同じ物を食べようと提唱した堺利彦。主張から誠実さが伝わる。2020/02/09
ふろんた2.0
22
文学に登場する食べ物からその当時の食生活を紐解く。この本、あまり人気ないようだが、もっと多くの人に読まれてもいいと思う。2018/02/06
ようはん
21
近代の文学やエッセイから見た明治〜昭和における日本の食文化について。夏目漱石「三四郎」で学生が肉を叩きつけるシーンからくる明治初期の牛鍋ブームの裏にあった馬肉混入問題や山崎豊子の「暖簾」から分かる日本各地の昆布文化など、切り口も広く楽しめた。2023/02/22
ろここ
9
この本とっても面白かったです!近代文学作品に登場する「食」の場面をきっかけに、当時の食文化や地域ごとに伝播したルーツなんかを紐解いてくれる、知的好奇心に溢れた本。食べ物が出てくる小説が好きな方はぜひ読んでみて欲しいです。正岡子規の病床でも旺盛な食欲に驚き。たこ焼きより明石焼きの方が先にできてたってことも驚き。2018/12/02