内容説明
夫との思い出を振り返る母と、今を生きる娘。つつましい母娘二人暮らしのなかで、彼女たちはなにを見いだすのか。表題作「カラス」のほか、老い支度をはじめた初老女性の心境を美しく綴った5篇の短編小説を収録。
著者等紹介
今村方好子[イマムラカヨコ]
1934年、朝鮮平壌府本町に生まれる。1946年、日本に引き揚げ後に、平壌市立山手小学校から松山市立道後小学校に転入。1955年愛知県立女子短期大学英文科卒業。「全作家協会」会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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hiace9000
111
老境を迎えた夫と妻、しばらくは続くと思っていたささやかで慎ましい日常。夫、あるいは母が世を去り、かつてそこにあったあたりまえの毎日を回想し、反芻しながら穏やかに暮らす日々…。半自伝なのだろうか、さざ波が心の岸辺に寄せては返すような、たっぷりとした慈しみの筆致で綴る短編集。お互いのなにげない会話、その他愛のなさにこそむしろ互いの愛情のありかを見つけ、読み手のだれもがさまざまな形でいつかは迎えるであろうその時を思わず想起し、そこはかとない切なさが胸に込み上げてくる。送り盆の今日16日、『どんぶらこ』が沁みる。2025/08/16
mike
82
初めての作家さん。1934年平壌生まれ。御健在であれば御歳91歳。小説は70歳を過ぎて出版。しかしこの方の情報も作品レビューも殆ど無い。話は人生も終わりが近付いてきた4人の女性の話で、共に過ごした夫、母、子との思い出が淡々と綴られている。去りし日への追憶と見えぬ未来への一抹の不安は、同年代に差し掛かった私の胸にじんわりと染みた。特に、先立った夫との思い出を描いた「遠ざかる月」は涙が溢れた。2025/06/18
やも
68
人生の後半戦に差し掛かった女性たちの短編5話。全話に夫や母など、身近な人との別れや、自身の肉体の老いが、なだらかに描かれている。家族って大切な人でもあり、憎たらしい面もあり。総じて人生が終わる際には、もっとああしてあげれば良かった、こう言ってあげればよかった、あの時のあれは正しかったのかどうか…と考えてしまうもの。そんな事も時薬でいつか溶けて無くなってしまうんだ。あまりにも一般人すぎる登場人物達と、淡々とした文章の潔さに、文学味と生きる慈しみを感じた。2025/05/26