出版社内容情報
互いに事情を抱え、母親達の同意を得られぬまま結婚した外山くんとゆき世。新婚旅行先のヘルシンキで、レストランのクロークの男性と見知らぬ老夫婦の言葉が、若いふたりを優しく包み込む(「ミトンとふびん」)。金沢、台北、ローマ、八丈島。いつもと違う街角で、悲しみが小さな幸せに変わるまでを描く極上の6編。第58回谷崎潤一郎賞受賞作。
内容説明
互いに事情を抱え、母親達の同意を得られぬまま結婚した外山くんとゆき世。新婚旅行先のヘルシンキで、レストランのクロークの男性と見知らぬ老夫婦の言葉が、若いふたりを優しく包み込む(「ミトンとふびん」)。金沢、台北、ローマ、八丈島。いつもと違う街角で、悲しみが小さな幸せに変わるまでを描く極上の6編。第58回谷崎潤一郎賞受賞作。
著者等紹介
吉本ばなな[ヨシモトバナナ]
1964年東京都生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年「キッチン」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TSUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、22年本作『ミトンとふびん』で谷崎潤一郎賞を受賞。海外での受賞も多数。noteにてメルマガ『どくだみちゃんとふしばな』を配信中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
162
『失うものがないということがなぜか安心につながっていた。もう死は私に追いついてこない』。長短織り交ぜた6つの短編が収録されたこの作品。そこには、それぞれの短編で主人公となる6人の女性たちの物語が描かれていました。台北、ヘルシンキ、そして八丈島とバラテエィに富んだ旅先にどこかは興味ある場所が見つかるであろうこの作品。そんな旅先に旅情を掻き立てられるこの作品。“たいせつなひとの死、癒えることのない喪失を抱えて生きていくー”という内容紹介の世界観が描かれていく物語の中に予想以上の深みを感じた、そんな作品でした。2024/02/20
ふう
77
家族や友人を失なった女性の『いつもと違う街角で、悲しみが小さな幸せに変わるまで』を描いた6話の短編集。大切な人を失った悲しみは静かに、とても静かに、落ち葉のように水底に沈んでいきます。その悲しみは忘れることも消えることもないけど、深く沈めたまま、残された人々は残された大切な時間を生きていくしかないと、旅先で出会った人々が教えてくれました。わたしもそんな人々に出会う旅をしたいと心から思いました。とくに冬のヘルシンキ。自分も年老いているのに、あの老夫婦に会ってムーミンチョコをもらえたらと思ってしまいました。2024/03/20
syaori
73
短編集。母親や親友との死別、夫との離婚など様々な喪失を抱える人たちの物語が並びます。彼らの物語では、生きることは「耐えがたいこと」ばかりで、また人は「ほんとうはわかりあえない」し、そうして積み上げたものは死別や離別で崩れてしまう儚いものだということが示されます。しかし同時に、そのやりきれないもののなかに「美しくて軽いもの」があることも示され、最後にはその「羽みたいな」ものの優しい美しさが残るようになっていて、「重い」「きたない」世界からそれを汲み上げてみせるところに作者の本領あるのではないかと感じました。2024/10/08
涼
55
http://naym1.cocolog-nifty.com/tetsuya/2024/10/post-00c46f.html 世界中の都市を舞台にした、6つの短編集です。「珊瑚のリング」が一番好きです。2024/10/26
yumiha
45
初めての吉本ばなな作品。「全てが幻のような美しいもやに包まれる磁場」と表現された金沢は、数年に一度帰郷する者にとってはただの生活の場なので、どこかこそばゆい。他の台湾、ヘルシンキ、ローマ、香港、八丈島にしても、そこで生活する者にとっての見え方と違う旅行者目線なのだろうと思った。どの物語も喪失感をたずさえての旅。そんな日々を肩肘張らず、人と人はもともと分かり合えないもの、どんな苦難も受け入れるだけ、生きていることを認めるだけという吉本ばなな流人生観が透けて見えた。どの物語も一人称で語られる。2024/06/29