出版社内容情報
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内容説明
2016年7月26日、知的障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が死亡、26人が重軽傷を負った「やまゆり園事件」。犯人は植松聖、当時26歳の元職員だった。なぜ彼は「障害者は生きるに値しない」と考えるに至ったのか。地元紙記者が、37回の接見ほか丹念な取材を続け、差別を許容する現代日本のゆがみを浮き彫りにした渾身のドキュメント。
目次
第1章 2016年7月26日
第2章 植松聖という人間
第3章 匿名裁判
第4章 優生思想
第5章 共に生きる
終章 「分ける社会」を変える
追章 事件から5年
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mana
45
今まで読んだやまゆり園事件関連の本の中で、最も分かりやすく、深く切り込んだ本だった。人の心の奥底にある「優生思想」をどうするか?能力主義は本当に良いのか? 誰もがある日突然障害を負う可能性がある。障害者が暮らしやすい社会を作ることが、健常者にとっても暮らしやすい社会に繋がる。地域で共生するためには、まず知ることが必要。ただ、インクルーシブ教育には難しい点も多いと思ってしまう。どうすることが差別や偏見の解消につながるのか?難しすぎるテーマで、一人ひとりが考えていかなければならない問題。2022/11/27
ちえ
43
20年7月に出された単行本に「追章」を加えた文庫版。 福祉に関わる仕事をしている一人として優性思想、パターナリズムについて意識していると思っていたが、読みながら自分の中にそう言った考えや能力主義があることを付きつけられとても苦しい。特に日常の仕事の中で、自分の行動や思いにそれが出ているとまざまざと見せられる。 「知的障碍者のグループホーム建設絶対反対」という看板を小学生の通学路に4年間建て続けた地域の話は愕然としたけれど、特に知的障碍者に対し「めんどくさいな」「怖いな」という気持ち、認めたくない 続く↓2022/08/27
いっち
33
やまゆり園事件とは、 2016年に相模原市の知的障害者施設で起きた殺傷事件。犯人は、事件のあった障害者施設の、元職員。 障害者施設に入職した当時の自己紹介文が載っている。「一年後には仕事を任す事の出来る職員を目指して日々頑張っていきます」とあり、いたって普通。当然、犯罪する人間だとは思えない。どこかのタイミングで、殺人を決意した。なぜ、犯罪に至ったのか。溺れた入所者を助けたのに、感謝されなかった経験が、大きい気がする。助けても助けなくても変わらない命。その命を守るために働く意味が揺らぐのも、おかしくない。2023/05/06
Tomomi Yazaki
29
本を開くのに、躊躇いがあった。残酷で酷い事件。でもその裏には、とても難しい問題が潜んでいることを知っていたから。その残虐さは別として、出生前診断や国家が行っていた強制不妊手術と思想は全く同じという事実(タブー)。裁判で、生きるに値しない極悪人とされ死刑判決が下る。これもまた、植松聖の身障者に対する考えと一致する理論。私たちの中にある、気づかぬ優生思想。これが増大し、正しいと思った時、第二第三の植松聖が生まれる。いや、もう生まれているかもしれない。2022/10/07
すーぱーじゅげむ
18
元職員が重度障碍福祉施設で障碍者45人を殺傷した事件、ずっと引っかかっていました。改めて読むといろんな問題が詰まった事件だったんだなぁ。「障碍者は社会にいらないから殺す」という思想の犯人を死刑にすることは、「いらないから殺す」を肯定しているのではないか。初めて気づきました。障碍者施設で働いて「障碍者は不幸しかつくらない。だから自分の仕事も意味ない」って思ったのなら、辞めてほかの仕事探せばいいのに。自分の犯行計画を50人の友達に話して協力を求めた。50人も友達がいるというのは人間的魅力があったのかも?2024/11/09