内容説明
富士山を望む町で暮らす介護士の日奈と海斗はかつての恋人同士。ある時から、ショッピングモールだけが息抜きの日奈のもとに、東京の男性デザイナーが定期的に通い始める。町の外へ思いが募る日奈。一方、海斗は職場の後輩と関係を深めながら、両親の生活を支えるため町に縛りつけられる。自分の弱さ、人生の苦さ、すべてが愛しくなる傑作小説。
著者等紹介
窪美澄[クボミスミ]
1965年、東京都生まれ。2009年「ミクマリ」で女による女のためのR‐18文学賞大賞を受賞。受賞作を所収した『ふがいない僕は空を見た』で11年山本周五郎賞を受賞。12年『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞受賞。19年『トリニティ』で織田作之助賞受賞。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
203
『宮澤さんが来るようになって、季節が過ぎるのが加速していくような気がした』。『富士山』を当たり前の景色として見る閉塞感のある町に『介護士』としての日々を送る主人公の日奈。この作品ではそんな日奈の前に現れた宮澤の存在が日奈の日常を変化させていく様が描かれていました。『介護士』の”お仕事小説”の側面も見せるこの作品。『富士山』がマイナス感情の象徴としても描かれる不思議感を感じるこの作品。直木賞の候補作品らしく、しっとりとした恋愛物語の中に、人が生きていくことの悩み苦しみを鮮やかに描き出した作品だと思いました。2023/05/17
馨
138
日奈と海斗の恋愛モノなんだろうけれど、最初から最後までもやもやしたまま終わった感じでした。あらすじを読んで想像していた話ではなく、また好きなジャンルの小説ではなかったのですが、各章での主人公が違っていたので一方通行な目線で読まなくて良かったからかスラスラ読めました。日奈目線だけで進んだら海斗も、畑中も皆最低に見えたと思うし、海斗が終盤で良い男だなんて思えなかったと思います。個人的には海斗には幸せになってほしい。2020/09/02
エドワード
95
富士山があり海のない県で、介護士として働く若い男女。「介護士になれば一生食べられる」とはいうものの、現場は苦労の連続だ。たまの休日も、狭い田舎での愉しみは限られている。専門学校の学校案内を制作する宮澤は東京を象徴する、彼らと対極にある存在だ。日奈は宮澤と関係し、介護士仲間の海斗ともつかず離れず。海斗の後輩の畑中真弓も訳ありで…。それぞれの視点から描かれる、穏やかだけど、つまらない日常。「じっと手を見る」は石川啄木の歌だね。高齢化の進む21世紀の地方のリアルさ、そこで生きる人々への暖かい眼差しに救われる。2020/04/26
dr2006
76
将来を見いだせず、相手への思いを昇華出来ない男女の物語が胸に刺さった。恋愛に正解はないし、感情は変化していく。本作は変化の速度が違う男女の恋愛の喰い違いを濃やかに描いていると思った。海斗と日奈は同じ専門学校を卒業し、特別養護老人ホームで働いている。二人は恋愛の輪郭をなぞるような関係だったが、今は同じ職場だけに気まずい日々だ。そんな中、日奈は卒業校の案内パンフ制作でホームに取材に来た年上の宮沢に惹かれていく。相手を思い遣る心が、自分の弱さを相手のせいにした自己満足に過ぎないかもしれないという事を知るべきだ。2021/06/21
湯湖
52
窪さんは三冊目?だと思うんだけど、読後感がいつも同じ。どんよりした気持ちになってしまう。この連作集も、メインの登場人物4人の誰ひとりにも共感できないものの、宮澤の甘ちゃんぶりについては、実家(プラス嫁の実家)が太いとこうなるかもなぁと納得。2023/09/02