内容説明
二〇歳に満たない少年兵を布張りの練習機で敵艦に体当たりさせる特攻作戦が行われた太平洋戦争末期。整備士の深田隆平は練習機が特攻に使われるとは思いもせず、悪戯心で操縦席に武運長久の祈りを刻んだ。あと数日で終戦と噂されるが、そんな隆平のもとへ特攻隊員と思しき若者から匿名で感謝の手紙が届く―。実体験をもとに綴る奇跡の邂逅譚。
目次
月光を浴びて
エメラルドの海
戦時下のヒコーキ作り
羅針儀のメッセージ
デカンショの里
沖縄転属
断末魔
蒼空の彼方へ
暗雲
第三次龍虎隊〔ほか〕
著者等紹介
古川薫[フルカワカオル]
1925年山口県下関市生まれ。山口大学卒。山口新聞編集局長を経て、文筆生活に入る。91年に藤原義江を描いた『漂泊者のアリア』で直木賞受賞。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
キキ
31
特攻隊。大きな爆弾を抱え片道の燃料しか持たず飛び立ってゆく少年たち。離陸していく彼らはどんな気持ちだっただろう…心が痛い。それを見送る家族や友人、恋人。どれだけ涙を流しただろう。数ある写真の中の彼らはいつも笑顔だ。数日後、数時間後には命が尽きるというのに。大切な人を守りたい。ただただそれだけを思い、体当たりで散華する。操縦桿を握る手は震えていたかもしれない。涙なくして読めない。2018/10/02
ASnowyHeron
22
戦争にまつわる物語は過酷だ。無差別に殺された一般人、無理や戦地に追い立てられた兵士。作者の実体験に基づいた小説だからこそ、人間臭さを感じるストーリーに心に迫ってくるものがあった。2019/02/14
よっしー
16
図書館でたまたま見かけた一冊。タイトルかわ気になったのですが…「特攻隊=零戦」というイメージが強かったのですが、実際にはそうではなかったのですね。「赤トンボ」と呼ばれた木や布張りの物で作られた飛行機。そんなもので人は空を飛び、戦いに挑んでいた。平和な世の中で過ごす身としては、想像もしがたい現実です。願わくば…この平和が束の間の物となりませんように……2021/01/24
Manabu
14
第二次大戦終戦間際に練習機(通称赤トンボ)で特攻を命じられ250kgの爆弾を搭載して出撃 散って逝った若者たちとその赤トンボの生産、整備 修理に携わった若者の話。十死零生の特攻作戦を採用、命令を下した大本営の司令官の罪は計り知れない程重いと思う。2019/10/06
ちい
5
赤トンボと呼ばれた九三式中間練習機で行われた特攻隊の話。終戦間際には、練習機まで戦闘に駆り出さなければならなかった日本の窮状が偲ばれる。作者の私体験に基づいているがかなりのフィクションを含んでいるとかで、小説としての扱いだけれど、戦後に取材された龍虎隊の詳細など(恐らく)史実であるので、フィクションとしない方が良かったような。現実と想像の境目が曖昧で身に迫る感じが薄れてしまった。2018/09/10