内容説明
長州の政治家血族として生を享け、少壮官僚として39歳で満州経営に乗り出す。A級戦犯容疑で巣鴨プリズンに3年間拘留されたのち一気に政治の世界を上り詰めた。59歳で保守合同後初の自民党幹事長、翌年第56代首相に就任し60年安保改定を単身闘った。口癖は「金は濾過して使え」。情と合理性と強かさを備えた昭和の傑物を描くノンフィクション。
目次
序章 南平台の家―「六〇年安保」の渦中で
第1章 長州の血族―繁茂する佐藤家と岸家
第2章 満州の天涯―縦横無尽、私服の「経済将校」
第3章 東条英機との相剋―悪運は強いほどいい
第4章 巣鴨拘置所での覚悟―「踊る宗教」北村サヨの予言
第5章 CIA秘密工作と保守合同―冷戦を武器に接近したダレス
第6章 不退転の決意、安保改定の夜―情けあるなら今宵来い
第7章 絢爛たる晩節―憲法改正の執念、消えず
著者等紹介
工藤美代子[クドウミヨコ]
1950年東京生まれ。ノンフィクション作家。チェコスロバキアのカレル大学留学後、カナダのコロンビア・カレッジ卒業。91年『工藤写真館の昭和』で講談社ノンフィクション賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぽんくまそ
13
岸信介の写真があると目を背けるほど岸の顔を嫌いだった。しかし安倍晋三の崇拝対象であるため安倍を理解するために岸を知る必要があり読んだ。小学校時代にいじめた相手に何十年ぶりかに詫びに行くという人間味もある。流転する岸の周辺への著者の切り込みが適切なため近現代史の勉強のし直しにもなった。しかし「カネは濾過して使え」と言った満州時代や戦後の反共活動でどのように濾過したのかは見えない。それから岸の外柔内剛な生き方はマルクスすらも読んだ多読や思想的交流で裏打ちされており、礼賛本しか読まない安倍が真似するものではない2019/11/10
Tomoichi
13
安倍首相の祖父で戦前・戦後に国家の中枢で活躍した元首相岸信介の生涯を描く長編ノンフィクション。「悪運」というのが彼の生涯の一つのキーワードとなるが恐るべき「強運」と言って良い。保守合同による自民党の誕生と安保条約の改定と彼の功績は大きいが、左翼マスゴミのおかげで「妖怪」扱いされているが本書はその名誉回復になっているのでは無いだろうか。昨今の「共謀罪」同様ゴミどもは法案も読まず歪曲して報道している。岸の時代と何も変わっていない。共産党が改憲派だったことは知っていたが社会党が元々は安保改正派のは知らなんだ。2017/05/03
nakagawa
8
まさに激動の人生を送ったと言っていいだろう。大東亜戦争、A級戦犯、1960年安保などなど。悪運と書いてあるがまさにその通りだ。彼は広島原爆投下の被爆者になってた可能性もあるしGHQによって殺された可能性だってあった。A級戦犯についてはciaとの関係が噂されているが、何かここはアメリカとの裏交渉みたいなものがあったのではないかと憶測する。戦後政治家では吉田茂と並ぶ大物政治家であり実力者であり強靭な頭脳を持ち合わせた人物なのは間違いなさそうである。2017/08/27
ムー
7
岸信介元総理は凄い人なんですね。久しぶりの伝記ものでとても良かった。長生きされましたねぇ。読みやすかった。 良書です。2019/12/21
蔵王まる
5
読み終わった直後の感想は、なんで学校では近現代史をもっと重点的に教えてくれなかったのかしら?と今更ながらの疑問。官僚から内閣総理大臣へと歩む中での岸信介像が、取り巻く関係人物も含め適度に分かり易く書かれているので読み易かった。安保条約や憲法改正論について、岸信介の政治姿勢を通してではあるが、改めて学ばさせてもらった気がする。2020/01/19