内容説明
この日常に不満はない、と瑠璃子は思う。淋しさは人間の抱える根元的なもので、自分一人で対処するべきで、誰かに―たとえ夫でも、救ってもらえる類のものではない。瑠璃子と二歳下の夫、総。一緒に眠って、一緒に起きる。どこかにでかけてもまた一緒に帰る家。そこには、甘く小さな嘘がある。夫(妻)だけを愛せたらいいのに―。恋愛長編。
著者等紹介
江國香織[エクニカオリ]
1964年東京都生まれ。89年「409ラドクリフ」でフェミナ賞受賞。「こうばしい日々」で坪田譲治文学賞、産経児童出版文化賞を、「ぼくの小鳥ちゃん」で路傍の石文学賞を受賞。2004年「号泣する準備はできていた」で第一三〇回直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
460
「ソラニン」にはじまり「トリカブト」に終わる、なんだか不穏な予兆を孕んだ12の掌編からなっている(統体として長編小説を構成)。各掌編では、聡と瑠璃子夫婦が互いの独白といった語りのスタイルをとる。"Sweet little lies"は、sweetはそうかもしれないが、 little liesだとは思えない。それほどに夫婦の紐帯は弱いということか。彼らが共に愛人との逢瀬の時には、全く別の顔を持つ。それは脱日常の姿としては当然(肯定しているわけではない)であり、人がその場によって鏡像を変えるリアルが描かれる。2019/08/08
じいじ
116
相手を干渉しない、ケンカもしない―一見、円満夫婦のお話。最近2年間は夫婦の交渉(文中は「肉体的接合」)なしだが、決して夫婦仲は悪くない。5年を過ぎて、夫は妻に息苦しさを、妻は生活に淋しさを感じ始める。その結果は、互いに隠し事「嘘」をもつしかないのだろう。短いセンテンスでテンポ良く読める、決してつまらない小説ではない。この夫婦が面倒くさいだけである。別作品で江國さんの空気感を再度味わってみたい。2018/09/20
☆ゆう☆
115
壊れそうで壊れない夫婦の物語。「人は守りたいものに嘘をつくの。あるいは守ろうとするものに。」という理屈は分からなくはないが、この瑠璃子と聡の場合はどうしても綺麗ごとのような気がしてしまう。不倫している自分が好きで、そんな自分を守りたいだけなんじゃないかと。瑠璃子は春夫と関係をもっても夫への愛情は揺るがないし、聡もしほと関係をもってからのほうが妻を大切に想えるようになったとはいえ、不倫は不倫なわけで…。様々な夫婦のかたちがあるのかもしれない。でも、私はやっぱり愛する人と守りたい人はいつも同じであって欲しい。2016/09/14
優希
102
柔らかい不倫。一緒に時を過ごしているのに甘く小さな嘘があるのが切ないです。それぞれがお互いを愛することができればいいのに、それができないから不倫という背徳に溺れ、互いに気がつかず、夫婦であることを守るように嘘をつく。当たり前であるかのような日常の延長として。2016/04/22
巨峰
58
静かにそしてなんのためらいも罪悪感もなしにダブル不倫のみちにはいっていく一組の夫婦を描く。配偶者のことも、そして、不倫相手のこともあまり考えない彼・彼女。だけど、文章を浸している静かな狂気というべきものが素晴らしい。ディディベアのぬいぐるみを夫婦の寝室に10も並べるのはやめてほしいものですw続きが気になりますね。映画も見よう!2012/01/20