内容説明
死んでしまいたい、と思うとき、そこに明確な理由はない。心は答え合わせなどできない。(『健やかな論理』)。家庭、仕事、夢、過去、現在、未来。どこに向かって立てば、生きることに対して後ろめたくなくいられるのだろう。(『流転』)。あなたが見下してバカにしているものが、私の命を引き延ばしている。(『七分二十四秒めへ』)。社会は変わるべきだけど、今の生活は変えられない。だから考えることをやめました。(『風が吹いたとて』)。尊敬する上司のSM動画が流出した。本当の痛みの在り処が映されているような気がした。(『そんなの痛いに決まってる』)。性別、容姿、家庭環境。生まれたときに引かされる籤は、どんな枝にも結べない。(『籤』)。現代の声なき声を掬いとり、ほのかな光を灯す至高の傑作。
著者等紹介
朝井リョウ[アサイリョウ]
1989年生まれ、岐阜県出身。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第二二回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。『何者』で第一四八回直木賞、『世界地図の下書き』で第二九回坪田譲治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
578
朝井 リョウは、新作をコンスタントに読んでいる作家です。生き辛い現代を生きる市井の人々の連作短編集、派手さはありませんが、心に沁みいる物語集でした。オススメは、『そんなの痛いに決まってる』&『籤』です。2019/11/16
ウッディ
415
死んだ人のSNSアカウントを特定し、生前最後の投稿を見る趣味、収入もスキルも自分を上回った妻に性的な関心を抱けなくなった夫、心の中の暗い部分をさらけ出した短編集。自分は違うと思いながらも、他人事と切り離せないような心の襞を描く言葉の力に、読んでいてヒリヒリしました。特に、ハズレ籤を引いた時、それから逃げる人と逃げられない人がいる。出生前診断で先天異常というハズレ籤を引いた妻と夫を描いた「籤」は、みのりのように生きたいと思う自分とそんな風に強くいられるのかと思う自分の葛藤が苦しかった。とは言え、面白かった。2020/02/25
bunmei
376
これまでの著者の世代とリンクした青春群像描写とは違い、人間の弱さやネガティブな心をクローズアップし、本当の自分の気持ちと対峙しようとする六編からなる短編集。哲学的な生き方や語彙の豊かさを感じ、良い意味での大人の世界観を広げる作品に仕上がっていると感じました。誰もが持ち合わせている、理想と現実との狭間で折り合いをつけ、ホントの自分を押し殺して生きている現代社会・・・。選びたくても選べなかった人生を歩んできた人の、心の叫びが聞こえてきます。しかし最後には、今後の人生の歩みに、ほんの少し明かりが灯る内容です。 2020/01/23
うっちー
316
直木賞作家というより芥川賞作家の作品群でした2019/12/25
いつでも母さん
279
くぅ・・朝井リョウ!こんなのを読ませてくれちゃってまいったなぁ。生まれてからこちら、100%完璧に自分の思うような人生を生きた(生きてる)人がどれ程いるだろう。人生百年時代、折り返しをとうに過ぎ妥協や我慢、苦い思いを握り拳の中にささやかな悦びや、幸せな瞬間を心の糧として生きてきた気がする。日々の生活の中で切り取った感情はこの6編の作品の中に散らばっている。そんな気持ちになった。それでも私は生きている。必ず訪れる死というその時まで生きるのだ。朝井リョウ!私は好きだ。そんなことを確認した読書になった。2019/11/08