出版社内容情報
突発性難聴をわずらった中学二年生の結は、耳が不自由になったことを親友にも打ち明けられずにいた。そんな悶々とする日々のなかで、両耳のまったく聞こえない今日子さんや、手話サークルとの出会いをつうじて、新しい一歩を踏み出していく。
日本児童文学者協会、第17回長編児童文学新人賞受賞作。
内容説明
雨が好きだったのに、雨がきらいになった。傘を打つ、ぽつぽつという雨音が耳について、ほかの音を消してしまう。後ろからクラクションを鳴らされて、よけたつもりが逆になり、車が急ブレーキをかけた。ぶつかる寸前だった―。「バカヤロー、なにやってんだ!」運転していたひとは、雨が降っているのに窓を開けて怒鳴った。突発性難聴で左耳が聞こえなくなった中学二年生の結。戸惑いや不安をかかえながら、結が決めたこととは―日本児童文学者協会「長編児童文学新人賞」入選。
著者等紹介
森埜こみち[モリノコミチ]
東京学芸大学教育学部特殊教育学科卒。第19回ちゅうでん児童文学賞を受賞し、『わたしの空と五・七・五』(講談社)でデビュー。第48回児童文芸新人賞を受賞。『蝶の羽ばたき、その先へ』で、第17回日本児童文学者協会・長編児童文学新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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chimako
85
中学二年生の1学期始業式の朝、突然の耳鳴りで左耳の聴こえが悪くなった結。耳鳴りは止まず、病院で診てもらうと「突発性難聴」という診断。症状が出て早く治療すれば治ることもあるが、結の場合は時間が経ちすぎた。聴こえる振りをしながら緊張した毎日をおくる結が手話に興味を持ち導かれるように手話サークルに通い出す。そこで出会う人々の明るさや前向きな姿に俯きがちだった結気持ちも上向きになる。自分の身に起きていることを呑み込んで不便を公にする。多感な時期の少女の気持ちの動きが良くわかる。2023/07/11
はる
85
突然片耳の聴力を失った少女。不安、悲しみ…。落ち込んだ日々を過ごしていたが、偶然訪れた手話サークルで、同じ境遇にもかかわらず明るく振る舞う女性と出逢う……。短い物語ですが、少女の不安に揺れる心の動きが丁寧に描かれていて爽やかな読後感。耳が聞こえない人の気持ちを多少とも知ることが出来たのも良かったです。2020/03/21
ゆみねこ
80
中2の始業式の朝、突然めまいがして左耳が聴こえなくなった結。母親にも言い出し難くて中々伝えられず、病院へ行った時には治療しても聴力は戻らなかった。親友や先生にも聴こえないことを明かせない。聴こえているふりをして、辛い日々を過ごしている時に出会った手話。同じ経験をした女性と心を通わせ、ついにクラスメートたちに左耳が聴こえないことを伝えられた。児童書だけど大人にも響く良書。2023/07/24
モリー
76
突発性難聴によって片耳の聴力を失った主人公が、自分の事情を周囲の人々に打ち明けられない気持ちが痛いほど伝わります。しかし、理解してもらおうと勇気を持って一歩を踏み出したことで、本人も気持ちにも、周囲の人々の態度にも良い変化が生じます。個人的な問題であると同時に社会的な問題でもあるテーマを扱った物語です。けれでもこの物語は、日々どこかで進行している現実でもあると思います。主人公が自分の気持ちを整理しただけに留まらず、社会を変える一歩を踏み出したことに心を動かされました。次は私自身が行動を変える番です。2019/12/19
☆よいこ
75
児童書。YA▽中学2年の始業式の日、結は耳鳴りで目が覚める。それからずっと耳鳴りが止まず、気にはしていたが誰にも相談せずに我慢していた。だけど、だんだんと聞こえが悪くなる。音は感じるのに言葉として入ってこない。誰が話しているのか、音の方向もわからなくなった。病名は「突発性難聴」ママは学校に相談して対応してもらわなきゃというが、結は誰にも言いたくない。友達にも言いたくない、相談したくないと隠し通す。そんな中、結は手話に出合い、自分と同じ難聴の今日子と知り合う。▽小学校高学年から読める。おすすめ良本。2020/03/04