出版社内容情報
中学一年の少年キャスは三年前、酒に酔った父親に銃を向けられ、母親と一緒に家から逃げだした過去がある。
父親のいない貧しい生活に引け目を感じ、周囲ともあまりなじめず、距離を置く。
逃げ足の速さから自分でつけた呼び名は”ゴースト”。
ところが、ひょんなことから地元の陸上チームに入ることに。
それぞれ悩みをかかえるチームメートや監督との関係を通して、自分の才能、そして弱さと向き合っていくことに……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
31
基礎英語で紹介されていた、アメリカの貧困家庭に育った少年が、陸上クラブに入り少しずつトレーニングや人との付き合いを覚えていく作品。子供向きなので読みやすく、また面白くて地下鉄に乗っていて乗り越してしまった。貧困家庭に育つという事は、当たり前の事を知らないという事であり、本人に落ち度はなくとも他人に蔑まれる事であり置かれた状況の辛さに胸が痛む。それでも足が速いという事をよりどころに、トレーニングの辛さに耐えて、また体を動かす楽しさを覚えて、嘘を言わない事の身軽さも覚えていく。作者の身の上もちょっと面白い。2020/10/17
かもめ通信
18
全速力で走る時のあの心臓のバクバクと、ハラハラしているときのドキドキはどう違うんだっけ?いつも走っている主人公の胸の鼓動と、読者である私のドキドキが重なって一気に読まずにはいられなかった。2019/08/19
Incisor
13
ただ走るという行為だったら、とてもシンプルで、間に合うために、あるいは逃げるために、命を守るために走ったりする。主人公の少年、ゴーストが走るきっかけとなったのは、命からがら逃げるためだった。そんなゴーストが、陸上競技というスポーツとして、走ることに出会い、取り組んでいく。その過程にぶつかる壁の数々に、切なくなるばかりだった。でもそれ以上に、周囲の愛情深いまなざし、ゴーストの素直で優しい気持ちに心が動かされっぱなしだった。訳文がどっぷりこの世界に連れていってくれた。2020/07/30
nightbird
12
テンポが良いスポーツ青春小説に「貧困」という主人公の抱える問題が自然に絡めてある。めちゃくちゃ読みやすい上に、読んだ後に貧困の中で生きる子の心の中を通過した体験が残る。自らを「ふつう」と思ってる人たちによる「もっと弱い」人たちへの分断や切り捨てや排除の言葉がどんどん軽々しくなっていく世界にこういう本が必要だなって思う。2019/10/17
くるり(なかむらくりこ)
8
スラム街に住みトラウマを抱えた少年が、走ることを知り再生する物語。涙と感動の――なんて、単純な話ではない。そんなにかんたんに、人は立ち直れないし生まれ変われないし、もうひとついえば、速く走れるようにもならないわけだ。すべてに一筋縄ではいかないゴーストが、憎たらしい、イライラする、でも愛しい。しょうがないなこいつ、って、応援したくなる。ざらっとしたこのリアリティは、作者の巧みな人物造形にくわえて、なにより絶妙な翻訳による語り口の力が大。ゴーストの声が、ほんとうに聞こえてくる!2019/11/11