出版社内容情報
芥川賞に輝いた第一作以来、作品ごとに文体を変幻させてきた≪小説狂≫作家による高踏的、唯美的、反時代的な、幻想文学の金字塔!!
≪狂躁の夜、悪魔の筆を藉り、これらの小説は書かれた≫
初出時の3倍に改稿された耽美的・象徴主義的な表題作「昏色(くれいろ)の都」170枚に、極限地の中洲でただ独り夢現のあわいを行き惑う幻想紀行譚「極光」、零落散逸した古漫画の記憶に遠い幼少期を幻視する瘋狂小説「貸本屋うずら堂」の2編を併録。文体や世界観を全く異にする鏤刻の3編。
《夜ごと悪魔の筆が紡がせた》畢生の記念碑的小説集。
――低い冬の陽が平原を黄金に透き、雲と地平、幾百年変わらぬ廃都ブリュージュの翳を紅に焦がし、日々わたしの眼裏に燃え落ちてゆく――
【著者紹介】
諏訪哲史
1969年名古屋市生まれ。國學院大学文学部哲学科卒業。恩師は独文学者の故種村季弘。2007年小説「アサッテの人」で群像新人文学賞・芥川賞受賞。著書に『アサッテの人』『りすん』『ロンバルディア遠景』(講談社刊)、『領土』『岩塩の女王』(新潮社)ほか。
内容説明
低い冬の陽が平原を黄金に透き、雲と地平、幾百年変わらぬ廃都ブリュージュの翳を紅に焦がし、日々わたしの眼裏に燃え落ちゆく。高踏的、唯美的、反時代的な、幻想文学の金字塔。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
96
作品集。三篇それぞれ違う語り口だが、いずれも読み手の内面に不穏な手触りで侵蝕してくるような覚えを持った。それは怖さと言うよりも現実がもたらす憂いに対して郷愁と物悲しさを醸すもので、それが穏やかに心を吸い寄せた。表題作は栄華の名残を有する貞淑な古都ブリュージュの麗しい情景と数奇な視覚障害を有する男の目との細やかで密やかな戯れが描かれていた。幼少の背徳な思い出や蜜蜂入りキャンディが浮遊し、夢と現実の境目を越えるように聖なる都と聖女への思慕が重ね合わさる。そして忘却される運命の生の想起は象形筆跡として残された。2024/06/14
えも
18
「くれいろ」と読むそうな▼昭和の頽廃的な幻想文学って感じの3編。なにしろ死都ブリュージュの眼球ナメナメなエロスや、北欧の最果てに取り残される不安感や、謎の貸本屋といったアイテムが、怪しみつつも懐かしく。2024/06/26
ゆう
10
表題作「昏色の都」はよかった。現実世界が舞台で幻想文学ではなく期待外れだったものの、視力を得てから失いゆく青年の静かな語りは魅力的だった。「極光」は文体が大幅に異なっていて、短文の表題作に対して「極光」は中には4ページにもまたがる昔の小説のような語り口調の長文。日本人男性の主人公が女医にエロさを見いだす偏見が受け入れられない。フィンランドが舞台なのに名古屋行きのバスを登場させる展開には呆れた。「貸本屋うずら堂」は「昏色の都」を表題作に短篇を並べるには奇天烈すぎて相応しくない。奇書の部類。 やや残念。2024/08/31
氷沼
2
「昏色の都」「極光」「貸本屋うずら堂」の3編を収めた作品集。 芥川賞作家による、幻想の衣を纏った純文学。 耽美の極まりない「昏色の都」「極光」が際立っていた。この2編だけでも国書税を納めた価値があり、なんだったらお釣りが来るなと感じた。 因みに、箱も本も装丁が素晴らしいのもポイント。2024/06/29
nightowl
1
濃密な幻想小説三篇。「死都ブリュージュ」が街を舞台にした悪女もののニュアンスが強かったのに対し、こちらは語り手が街に吸い込まれるような表題作。長文連なる極寒地でのピンチ「極光」、少年の日の奇妙な本の思い出と作者「貸本屋うずら堂」。幻想に耽溺するには知性派の壁が阻む。オートフィクション的な「貸本屋うずら堂」の気ままさが親しみ易くそれまでと異なる意外さがあり、更にバラエティ豊かな作品集が読みたくなる。2024/07/29