内容説明
風変わりな若い妻を迎えた男。秋の新婚の旅は“夜の宮殿”その他の街を経て、機械の山へ。圧倒的なるイメジャリーに満ちみちた驚異と蠱惑の“旅”のものがたり。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
108
山尾さんの小説は以前に短篇集を読んだことがあり、かなりフィーリングがあったように感じました。この作品を読んだときにはあまりイメージがなくどのように考えていいのかあまりわかりませんでした。ただ再度読み直してみると、むかし泉鏡花が登場したときもこのようなものであったのかもしれないと考えると比較的わかりやすさが出てきました。しかしながら私にとってはこの山尾さんよりも多和田葉子さんの方がわかりやすい気がします。2022/08/05
アキ
88
山尾悠子初読。幻想的で夢の中のような不思議な世界。妻との新婚旅行中に亡き母と会い、夜の宮殿で<山の人魚団>という舞踏団に<虚ろの王>という実体のない存在の、妻をも巻き込んで、舞踏と浮揚にまつわる物語。映像化したら面白そう。確か著者は岡山出身。岡山の蟲文庫でサイン本買ったのを思い出した。2021/05/11
吉田あや
80
ある夫婦の新婚旅行の話であることが冒頭に明記され始まる、過去作品を内包した圧倒的な山尾ワールド。「新婚旅行」であることが提示されているにも関わらず、信用ならない語り手に愉しくも不安にさせられ、イメージの洪水に呑まれるように深く、遠く、始まりの時点へと運ばれていく。山の人魚の伯母と言えば「歪み真珠」の伯母であり、あの印象的な女王との謁見の夜の宮殿で、固いパンを隠れて吸わぶっていた少年がこの作品で新婚の夫として登場する。(⇒)2021/03/29
コットン
78
今回の装丁は嬉しいミルキィ・イソベ氏の函入りで物語に合ったデザインが良い。ストーリーの急速な場面展開やフラッシュバックのような効果が現実的でありながら夢を見るような描写の数々はカルトなシュールレアリズム映画を見るようでもあり楽しめる1作。2021/05/08
HANA
68
新婚旅行の話。らしいのだが粗筋を把握するのは非常に困難。著者の小説は前からそうだったのだが、先の『飛ぶ孔雀』あたりから散文詩、象徴詩の域に入っているような気がする。『科学の結婚』の如くそこに隠されている意味を探すもよし、随所にみられる言葉が持つイメージに翻弄されるもよし。読者たる我々に出来るのはその言葉が作り出す世界、絢爛たる伽藍に圧倒されその内部を迷い歩くだけである。思うに稀に言葉だけで世界を作ろうとしてしまう作家が一握りいて、著者はその一人だと思う。その世界を垣間見る事が出来る事を今はただ寿ぎたい。2021/04/06