内容説明
円と楕円、ゴーゴリとロシア、雨月物語、千円札文学論、アミダクジ式文学論、日本作家論、団地、自分史、読書遍歴―小説との境目を自在に往復して織りなされる思考のアラベスク。昭和40年代から平成年代まで、約30年のあいだに書かれ、後藤明生のエッセンスが凝縮された、50篇を越える評論・エッセイを厳選してこの一冊に収録。詳細な年譜付き。
目次
昭和四十年代(団地の中の花;『私的生活』後記 ほか)
昭和五十年代(「矛盾」;他者の世界 ほか)
昭和六十年代(「ノアの方舟」のみなし児たち;東京の“奇跡” ほか)
平成年代(分裂した楕円;“『スケープゴート』”後記 ほか)
著者等紹介
後藤明生[ゴトウメイセイ]
1932‐1999。1932年、旧朝鮮咸鏡南道永興郡永興邑(現在の朝鮮民主主義人民共和国)で生まれる。1946年、三十八度線を越境、福岡県に引き揚げる。1953年、早稲田大学露文科入学。1955年、「赤と黒の記憶」が第四回全国学生小説コンクール入選。大学卒業後、博報堂を経て平凡出版(現マガジンハウス)入社。1962年、「関係」が第一回文藝賞中短篇部門の佳作となる。1968年、平凡出版を退社し、小説家専業に。1989年、近畿大学文芸学部教授、1993年に学部長となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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erierif
18
後藤明生は曽祖父が宮大工で朝鮮が日本の植民地になった時点で移り住み現在の北朝鮮で生まれ育ったそう。ところが敗戦となった1945年8月15日からその故郷は外国となり2度と帰れなくなる。福岡に移り住み言葉と文化を覚えたところでまた大学から東京で言葉を覚えという経験があったと知る。その事をふまえると冒頭の『団地の中の花』もアイデンティティの話に変わった。彼の視点はずっと外から見つめるような、楕円の離れたところから静かに佇むような感じがする。『菊花の約』が素晴らしく上田秋成『雨月物語』はぜひ読みたい。2018/03/06
amanon
3
シリーズ最終巻。読む前は「これで後藤氏の全仕事の大半は網羅できるのかな…」と思っていたが、とんでもない間違いだと気づく(苦笑)。「アミダクジ式」、「楕円形」などの独自の文学理論概念や、引揚者という特異な体験、そしてもちろんその作品世界…などまだまだ深掘りする要素があるということを改めて痛感。本書では、ロシア文学や戦前文学など、過去の文学作品について論じたものが多く収められているが、同世代やそれ以降の文学について書かれたものをもっと読みたかった。その意味で、大江の『小説の方法』を論じた「小説の構造」が貴重。2024/09/07