出版社内容情報
偽名で出された鉄幹を誹謗した『文壇照魔鏡』の著者は誰か。明治の文壇を揺るがした著名な事件を、その動機・背景から究明する。明治34年(1901)春、文壇の寵児・与謝野鉄幹を、女性・金銭関係から激しく非難する『文壇照魔鏡』が刊行された。明らかにプロの筆だが、著者・発行所などすべて偽名とすぐ判明。だが、多くのメディアが同調的立場から一斉に鉄幹批判を展開した。明治文壇史上の著名な怪事件となる。一年前、鉄幹が始めた「明星」は、アールヌーボー調の装丁に晶子・山川登美子らの恋歌を前面にヒットし、先行の文芸紙・誌を凌ぐ急伸を見せた。その絡みから犯人捜しとして語られ、複数人の名が取りざたされてきた。
本書は跡付け、動機も解明ーー 一個人の情念が一つの時代相さえ容易に作り出す、新たな社会的道具が力を見せつけた。意外にも事後に心の傷を引きずるような行為者と、早い死の床に迫りくる魔的なものを聞きながら作歌し続けた、知られざる真の被害者の姿が・・・・・・。メディア時代の幕開けに生じた一件が現在に示唆を与える。明星史の再検討でもある。
第?章 『文壇照魔鏡』の出現
1 魔書と高須梅溪
2 波紋
3 裁判
4 寛の弁明と「明星」2月号
5 足尾鉱毒問題と照魔鏡
6 マスコミと犯人捜し
7 なぜ田口掬汀か
8 「新声」のこと
第2章 高師の浜の歌蓆
1 「新声」の登美子
2 鉄幹と河井酔茗
3 運命の「蛇さへも・・・・・・」
4 「新星会」のこと
5 梅溪、そろりと牙
6 「粟田山の一夜」と「匕首」
7 「関西文学」終焉と「新潮」蒸発
8 「明星」もどきの「新潮」7号
3章 鉱毒ルポと魔詩人
1 掬汀・梅溪の『亡国の縮図』
2 「鉱毒画報」田中万逸と秋水、石上露子
3 『魔詩人』にこだわる掬汀
4章 登美子の慟哭
1 晶子宛て未着の「29日」付け書簡
2 夫恋歌「夢うつつ」10首
3 『恋衣』入れ換え歌1首
4 絶唱「日蔭草」14首と漱石『夢十夜』
木村勲[キムライサオ]
1943年、静岡県生まれ。一橋大学社会学部卒、同大学院社会学研究科修士課程修了。日本社会史・近代文芸論。朝日新聞記者を経て関西大学非常勤講師、神戸松蔭女子学院大学教授を務めた。著書に『日本海海戦とメディア――秋山真之神話批判』(講談社選書メチエ)など。
内容説明
個の情念が一つの時代相さえたやすく創り出す―メディア時代の幕開け時の事件が混迷深める現状への黙示録となっている。時代の寵児与謝野鉄幹を襲った怪文書『文壇照魔鏡』。百年の流説を解明―悲運の登美子の絶唱も。
目次
第1章 『文壇照魔鏡』の出現(魔書と高須梅溪;波紋 ほか)
第2章 高師の浜の歌蓆(「新声」の登美子;鉄幹と河井酔茗 ほか)
第3章 鉱毒ルポと魔詩人(掬汀・梅溪の『亡国の縮図』;「鉱毒画報」の田中万逸と秋水、石上露子 ほか)
第4章 登美子の慟哭(晶子宛て未着の「廿九日」付け書簡;夫恋歌「夢うつつ」十首 ほか)
著者等紹介
木村勲[キムライサオ]
1943年、静岡県生まれ。一橋大学社会学部卒、同大学院社会学研究科修士課程修了。朝日新聞記者を経て関西大学非常勤講師、神戸松蔭女子学院大学教授を務めた。日本社会史・近代文芸研究者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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