内容説明
奴隷商人の父親がアフリカから持ち帰った太鼓は、一家に何をもたらしたのか。父の教えを守り、書物に埋もれた学究生活を続ける男とその家族を次々に見舞う恐るべき死と災厄。グロテスクな想像力にあふれた120枚の木版画で語られるこの「小説」には、文字が一切存在しない。読者は絵を1枚ずつ丹念に読み解くことによって、“知”に憑かれた主人公に下された過酷な運命を、ひとつひとつ辿っていくことになる。強烈な明暗対比と鋭い描線で読書界に衝撃を与えた特異な天才画家ウォードの“文字のない小説”。
著者等紹介
ウォード,リンド[ウォード,リンド][Ward,Lynd]
アメリカの画家・版画家。1905年、シカゴに生まれる。コロンビア大学を卒業後、ドイツへ渡り、グラフィックの技法を学び帰国。『誰がために鐘は鳴る』『レ・ミゼラブル』『フランケンシュタイン』など、限定本の挿絵を制作する一方、『神の僕』(1929)や『狂人の太鼓』(1930)など、木版画のみでストーリーを構成する「文字のない小説」を発表。大きな反響を呼び、アメリカにおける木版画の主導的作家となる。1985年没
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
59
絵だけで展開される不気味な話。太鼓で遊んでいた子供が原住民族を殺害し、太鼓を手に入れた父親に叩かれたことにより、書物(学問)に没頭していく。労働、恋愛、神にも目を背け続けた男に対し、周囲は悍ましくも遣る瀬無い死と不幸に見舞われていく。学問にのみ没頭して周りを見ようとしない夫や父を軽蔑し、去ろうとする妻と娘たちも男が結んだ因果の手から逃れられなかった。時々、目に暗い線が入って絶望的な顔をする場面が怖い。そして笛吹き男は男の父親が売り飛ばした奴隷の祖先ではないかと考えると最後のページが無性に怖くなってしまう。2014/07/23
☆よいこ
50
文字のない版画だけで構成された物語。奴隷商人の父親がアフリカから持ち帰った太鼓。太鼓の呪いか、災厄と不幸に襲われる家族の物語。▽表紙から絵本かと思ってたら、意外に厚みのある単行本だった。120枚の版画でストーリーが進む。説明、解説は無し。図書館で借りた本だったが、「リンド・ウォードの最高傑作」と題する牧眞司の解説ブックレットを添付してあり、よかった。コレがなかったら理解ができなかったかも。2018/08/19
Roy
35
★★★★+ もしこういう形の本が、読み手の心の鏡であるのなら、僕の心はとんでもない悪意で満ち溢れている。登場人物は他者を殺す、嵌める、蔑む、妬む。あえて台詞をつけるとしたら、ほとんどの絵「殺しちゃおっかなー」で賄えるのだ。とても怖い本、とてもおぞましい自分。で、時折挿まれる、笑ゥせぇるすまん喪黒福造のような「ドーン!!!」。これには鎮魂歌が良く合い「もっともっと殺しちゃおっかなー」って言いたくなってしまう。なんてことだ、、、2009/08/12
KI
25
狂気は感染する。そして、蔓延する。2019/09/14
tomo*tin
22
120枚にも及ぶ版画からなる本。すべてを覆う白と黒。刻みつけられる光と影。本書に文字は一切無い。しかし紛れもなく雄弁な「小説」であるし、読者の数だけ語られるべき「真実」があり、それ故に深く鳴り響く「物語」である。狂気はきっと隣にある。2009/06/18
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