内容説明
エレアのゼノンが提起する難問を起点に、空間の無限分割を考案した「アキレスと亀の果てしなき競争」。ユダヤ教隠秘主義カバラの暗号解読の中に数の神秘を探る「カバラの擁護」。人間フローベールに文学者の宿命の典型を見る「フローベールと彼の模範的な宿命」。ギボンやセルバンテスを引用しつつ古典主義的作品の復権を謳った「現実の措定」。ホメーロスの数種類の翻訳を対比させながら翻訳の抱える文学的問題を論じた「ホメーロスの翻訳」。神学上の永遠の問題に挑んだ「地獄の継続期間」。―哲学、神秘主義、異端、レトリック、映画、そして文学の楽しみを縦横自在に語ったエッセー全20編を収録。
目次
ガウチョ詩
現実の最後から二番目のヴァージョン
読者の錯誤の倫理
もうひとりのホイットマン
カバラの擁護
異端思想家バシレイデスの擁護
現実の措定
フィルム
語りの技法と魔術
ポール・グルーサック〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
∃.狂茶党
10
本書のボルヘスは、比較的感情的で、非常に短い文章からなる、『ノート』を別にすれば、あまりボルヘスらしくないとも言える。 人物名などの注がついてるが、発表媒体の情報などもほしいところ。 第二版で削除された、最後の文は、アルゼンチン人に対しての苛立ちだが、それは多分普遍的なものだ。 ボルヘスは、世界的に蔓延する愚昧さについて書いておけば、削除しようと思わなかったのではないか。 愛国心・プライドが、ボルヘスの目を曇らせ、はじいらせたように思える。 2022/10/21
roughfractus02
8
必然は人間の解釈にしか存在しない。この解釈を出れば人間も世界も無意味でしかない。これは単なるシニシズムではない。宇宙を偶然の産物と見なす普遍に対峙して得られた洞察だ。ホイットマンの宇宙、アキレスと亀の間の無限分割される空間、カバラ的暗号解読によってのみ接近可能なユダヤの神、そして自ら成し遂げた人間中心の小説概念を破壊するフローベールのぞんざいさを語る著者は、同時に、もしローマでなくアレクサンドリアが勝ったら世界はどうなったか?と問う。偶然は無限の可能世界を作り、神を人間の俗的解釈から解放する力なのである。2020/02/24
にゃら
4
フロベールの話が興味深く読みたくなる。まだボルヘスがあまり掴めてないけれど、未来を見据えた小説観が今でも新鮮なのは驚かされる。2017/08/17
tamioar
1
博覧強記は一点を超えると胡散臭さに変わる(ex.松岡正剛など)2017/11/06
梨
1
言葉を使って考えると言うより、言葉そのものがあり、それの美しさを感じ、それについて思考しているようだ。ちょっと意外なくらい映画の話題が出てくる。2010/10/19