内容説明
陶器製のチューリップ、学のある豚ソーセージ、人工飼料で飼育された大砲、深海でハンマースリコギ魚を写生する画家―奇妙奇天烈な多数のオブジェが登場するなか、超人カール大佐が艦長を務めるUボート713号は、南国の美しい歌姫に恋してお魚に戻っていく…「ジャリの『ユビュ王』とダダイズムとの架け橋となった作品」と評される未来派的な奇作『恋する潜水艦』。古びた海賊の地図をたよりに、金銀財宝を求めて上陸した島に見いだしたものは…“『宝島』異聞”ともいうべき傑作『海賊の唄』。カリブ海を荒らし回るバッカーニアたちの多彩なエピソードをモザイク状に綴った『金星号航海記』。独特のユーモアと幻想にあふれた冒険小説、全3編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
rinakko
4
潜水艦奇譚が一つと、海賊譚が二つ。どれも面白かった中、風変わりな膳立てから始まる表題作は、ギュス・ボファの挿絵の魅力とも相俟って、潜水艦が恋をするという奇想がとても好ましかった。ラストの渇き具合、ちょっとブラック?なところも好き。そして海賊譚の二つは、“成上り紳士”を自称する海賊たちの、騙し合いながら生き延びようとする無情さが、ピリリと効いている。2010/04/27
まどの一哉
3
「恋する潜水艦」:機械との婚姻が行われる世界。意思を持つ潜水艦713号艦長の航海日誌。小説というよりモダニズム散文詩のような、愉快な挿絵満載で楽しめるナンセンス文芸。 「海賊の唄」:金に目がくらんだ男たちの正義のない冒険小説。ストーリ本位の作品でとくに味わうところもなく、読んでいて殺伐とするところはあるが、話自体はどうやって終わるのか気になった。 2019/11/07
Pia_610
3
19世紀末から20世紀初頭にかけて書かれたということにまず驚いた。このセンス。日本だと「万歳!」、ドイツ帝国だと「ハイル、ヒトラー!」とでも叫ぶ市民たちが、ここでは「AZ.C2!」(化学式らしい)挿画がまたキュート。頭が気持ちよく真っ白になった。表題作の他、海賊もの二作。作者の海賊への偏愛ぶりがいとおしく思えた。2012/01/05
のんの
1
タイトル通りの恋する潜水艦(イラスト入り)、宝島、海賊の話。3つの話が収録されている。明るい冒険譚という感じではない。2017/04/25
早乙女まぶた
1
「恋する潜水艦」「海賊の唄」「金星号航海記」の三編を収録。「恋する潜水艦」はボファの挿絵も相まってキュートな感じ。メルヘンは言い過ぎだけど、登場するなんでもが人格を持って動いている。恋を知って潜水艦をやめた魚なんて表現をしてしまうといかにも少女的な夢物語な感じだが、「命を受けた男たちの冒険」として話が進むので甘ったるくない。ボファの挿絵だけでも楽しめるのに、素敵なおはなしでした。「海賊の唄」はただの冒険潭だと思っていたらラストが衝撃的で驚いた。クルールとエリアザールの今後を考えると恐ろしくてたまらない。2012/04/08