内容説明
美智子皇后が学生時代に愛読され、後年には作者の父、野村胡堂に手紙を出されてまで探し求められた幻の名作。23歳で世を去った作者が描く、少年少女たちの織りなす美しい世界。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
カナン
44
純潔、又は高潔だろうか。「少年」「少女」という響きに相応しい彼らの前を通り過ぎる人々と季節と生死。親を亡くす。虫の体に針を刺す。猫を踏んで蹴り上げる。学校を勝手に逃げ出す。幼子を強引に引っ張り水辺へと落とす。書き連ねれば思わず眉を潜めたくなるような行為が散りばめられているが、それを含めて少年少女の伸びやかで純然たる魂の在り方なのだと気付く。彼らは己の全てを以て、素直に悲しみ、正直に怒り、爛漫に笑い、あるがままに友や家族を想い慈しむ。それは一切の濁りも無い純然な愛情で描かれた幸福な絵のように眩い光景なのだ。2016/02/28
あ げ こ
9
美しい、美しい、しかし、儚く弱々しく煌めき香る類の美しさではない。脆く、可憐に咲く子ども達の美しさではない。もっと活き活きとしていて、伸びやかで、明るくて、賑やかで、時に騒がしい美しさ。健やかな平穏、哀しみに濡れて光る不幸は、優美な幸福へと。甘く柔らかな憧憬はしかし、さえずりの朗らかさにこそ、誘われる。物語を大切にする、物語の中にある、また物語を思う時にある、豊かさや喜びを大切にする子ども達の物語。行き渡る愛情は、彼等と同じ場所で、同じ楽しさや哀しみを見つめるが故に溢れ出るもの。微笑ましく、快い。2016/02/25
むぎ
6
戦前の少女小説は本当に美しくて現実に疲れたわたしの癒しです。鎌倉の海が映す四季の美しさ、自然や大人の温かな愛に囲まれて育つ少女たち。微笑ましい兄妹愛や子どもたちの純真な心にほうっとため息をつきたくなります。昔の少女たちは本を読みながら美しい世界に憧れを忍ばせたのでしょうか。松田瓊子さんは初めて読みましたが、読んだ者の心に美しい景色を映してくれる文章を描かれるので感心してしまいました。彼女の文章に惚れ込んでしまったので他の作品も必ず読みます。彼女が影響を受けた作品やこの本に言葉を添えた村岡花子も読みたいです2014/11/28
真竹
4
作者の松田瓊子は、『銭形平次捕物控』などで知られる作家野村胡堂の娘で、23歳の若さで亡くなった。作品からは、子どもと創作を愛した彼女の真っ直ぐな人柄が伝わってくる。他の作品も読みたい。2012/03/01
Mayu
4
熊井明子さんの本で紹介されていた、松田さんの著作。内容的にはモンゴメリのストーリーガールのような、子供たちが楽しく遊んでいるところとその周辺、という感じですが、兄弟や友人同士がお互いに思いやる気持ちや、見守る大人たちの慈しみの眼差しが、とても美しい文章で綴られていて、舞台が稲村ヶ崎や鎌倉という馴染みのある土地だったこともあり、場景を思い浮かべながら、楽しく読めました。著者は病気で早世されたそうで、そのような刹那を懸命に生きられた方だからこそ、このような研ぎ澄まされた感性を持てたのかな、と思いました。2014/11/12