内容説明
ブロンテ姉妹の『嵐が丘』と『ヴィレット』、メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』、ウィリアム・ゴドウィンの『サン・レオン』、ジェイムズ・ホッグの『義とされた罪人の手記と告白』―18世紀末から19世紀半ばに及んで発表されたこの5つの小説から、英文学における〔ロマンティック・ノヴェル〕の系譜を解読。「現実の生活と風俗を描く」という従来のリアリズム小説の定義に飽きたらず、その領域を常に拡張、逸脱し、ノヴェルの持つさらなる可能性を探求しようとしてきた〔ロマンティック・ノヴェル〕とは何か?その過激な実験性ゆえに、曖昧かつ重層的、両義的なものとなり、破壊、分裂の危機にさらされた、異形のテクスト群を解析する。
目次
第1章 拡張と逸脱―ロマンティック・ノヴェルとは何か
第2章 崇高なる迷妄―『ケイレブ・ウィリアムズ』から『サン・レオン』へ
第3章 知識の両義性―『サン・レオン』から『フランケンシュタイン』へ
第4章 鏡の中の悪魔―『義とされた罪人の手記と告白』
第5章 閉ざされた楽園―『嵐が丘』
第6章 空想の不思議な魔術的歓び―『ヴィレット』
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
蛸
16
現実的な主題を扱うノヴェルと、超自然的な主題を扱うロマンスの対立の最中に生まれたゴシック・ノヴェル。ゴシックの祖ウォルポールは、超自然的な事象の存在は描きつつもそれに対する人間の反応は蓋然性を持ったものとして(リアリティのあるものとして)描くよう心掛けた。これは今に至るまでホラーやSFなどのジャンルで心掛けられるべき鉄則であるように思える。ノヴェルとロマンスの対立はそのまま理性と想像力の対立だ。18世紀末から19世紀半ばにかけて生まれたノヴェルの枠を逸脱した作品群を著者は「ロマンティック・ノベル」と言う。2018/11/23
misui
6
理性とリアリズムを標榜する「ノヴェル」が新興する傍ら、旧来のロマンスやゴシック・ノヴェルの流れを引き受けて、理性と想像力に引き裂かれながらノヴェルの領域を拡張した作品群を「ロマンティック・ノヴェル」として論じている。ウォルポールからアン・ラドクリフへ、そしてブロンテ姉妹やメアリ・シェリーが活躍する端境期の作品が取り上げられ、ホラー・幻想・ミステリの淵源に興味のある人におすすめ。個人的には著者の作家業がこれらの研究によって理論的に支えられているということがわかりとても興味深かった。2017/04/01
∃.狂茶党
2
ゴシックやロマンス、そういったもの、想像力に身を委ねる物語が、近代的なリアリズム小説の時代に、いかに変容したかを捉える。 作品ごとに区切られているために、縦横に視点を移動する語りとはならず、いたって堅実な作り。参考文献や注も充実していて、学問的な書物。 解釈は、それ事態物語となる。 この流れに、『ねじの回転』などがあるわけですね、と納得。 できれば作者がもっと広く深く、これらの想像力について語るものが読みたい。2021/05/21
いなもと
0
※再読※取り扱っている作品は名の知られたものばかりだが、ホッグをはじめとしてなかなか手に入らないものが多くて悔しい。相変わらず不勉強で申し訳ない気持ちになる…2009/10/19
最大255文字
0
「ゴシック・ノヴェル」流行の後期からその衰退期、18世紀後半から19世紀初頭にかけて、「現実に取材してその報告をこととする」ノヴェルの要素と、「およそ非現実的な事柄を扱い、非抑制的な修辞を振舞う」ロマンスの要素をあわせもった「ロマンチック・ノベル」が現れた……この「ロマンチック・ノヴェル」を主題にした論考が収められた本。ウィリアム・ゴドウィンの二つの小説を扱った論考、ホッグの『義とされた罪人の手記と告白』論、シャーロット・ブロンテの『ヴィレット』論などなど。2020/09/18