内容説明
日曜日ごとに教会を「襲撃」した祖父との思い出に始まり、独裁政権下の祖国を逃れ世界各地を経巡った日々、そして、うそつきガウチョや天才科学者たちの待つ「世界の南の果て」パタゴニアへの帰還の旅…。新しいラテンアメリカ文学の旗手として、ヨーロッパでも絶大な人気を誇る作家が描くユーモラスで感傷的なトラヴェローグ。
目次
第1部 どこでもない場所への旅
第2部 往きの旅
第3部 帰りの旅
結び 到着
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
167
セプルヴェダはチリ生まれの作家。本書は彼の自伝的な要素を持つ作品。著者は、幼少期から祖父の影響もあって、やがて共産主義青年同盟に参加。ピノチェトの軍に捕らえられ900日余りの投獄生活を送る。そこから、「どこでもない場所への旅」が始まる。いわば亡命の文学ともいうべきもの。彼は、本質的にはアナーキストだろう。また、同時に汎南米主義者でもあるのだが。南米大陸の南端(地図でいえば細くなるあたり)に位置するのが「地の果て」パタゴニア。そこを飛行機で移動してゆく果てしない旅は、スケール感と空無感が共に漂うかのようだ。2014/12/29
どんぐり
87
チリ生まれの作家セプルベダ3冊目は、司馬遼太郎風にいうなら「パタゴニア素描」。南米大陸の南端、アルゼンチンとチリの2ヵ国にまたがる南緯40度以南の地方をパタゴニアという。1520年にマゼラン、1832年にダーウィンが上陸した地。1913年にブッチ・キャシディとサンダンス・キッドが腕のいい大工としていくつかの小屋を建てている。1973年の軍事クーデター以降、百万以上のチリ人が細長い病んだ国をあとにした。セプルベダはこの地で2年半余り獄中生活を送り、1980年にドイツへ出国した。→2023/04/26
サトシ@朝練ファイト
52
細かい事はおいといて、普段馴染みのない地名や人名が出てくる作品もいいね。可能な限り文学の冒険シリーズ作品を読み進めて行きたいです。2014/04/28
maja
18
何気なく描かれているように感じるエピソードは滑稽に感じられるような話も、素敵な話も、恐怖も、独特な静けさを持っている。著者は南米の地を転々と移動する。独裁政権下の祖国を後に彷徨する。自由を手に入れた著者がアンダルシアにある自分のルーツの地マルトスに向かう最終章。祖父との約束の地に立ち、大叔父に会う。「おまえはわしの兄貴か?」の言葉に、込みあげてくるものがあり胸がつまる。2019/06/09
かもめ通信
18
独裁政権下で反体制活動家としてとらえられ、拷問を受けたこともあるという著者の自伝的短編集。決して明るいトーンではないのだが、陰鬱な雰囲気はまるでなく、全編を通じて甘く切ない香りさえ漂う。元アナーキストの祖父の影響を受けて育った少年からはじまって、南米各地の放浪時代、ようやく帰国の許可が出てパタゴニアに腰を落ち着けるまで、そして祖父のルーツをたどる旅。飾らないごく自然な筆運びでありながら、完璧なまでの歌い上げられた「物語」に、閉じたばかりの本を、思わず胸に抱きしめてしまう、そんな1冊。 2014/05/21