内容説明
極貧の幼年時代、カストロに熱狂したキューバ革命、作家としてのデビューそして独裁政権下での投獄。ラテンアメリカ文学の傑作『めくるめく世界』の著者として、現代文学を代表する作家の一人であるアレナスが死の前に綴った自伝。あまりにも純粋な自由を求めつづけたがために、自由から隔絶されてしまった男の凄絶な手記。純粋すぎるがゆえに自由を奪われた作家の赤裸々な告白。ニューヨーク・タイムズ・ブックレビューが選ぶ年間最優秀図書。
目次
石ころ
小さな森
川
学校
教会堂
井戸
クリスマスイヴ
取り入れ
にわか雨
見世物
性衝動
暴力
霧
夜、祖母
土
海
政治
オルギン
エル・レベージョ
降誕祭〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
スミス市松
24
「自由とは世界をたったひとりでうろつきまわること、自由とは牢獄の中に自らを閉じこめ、その牢獄が世界中をさまよい歩くこと」――そんなことを歌った昔の曲を思い出した。文章の読みやすさが逆に痛々しい本書において著者の稀有な想像力はなりを潜め、私はむしろ、その屈強な肉体に刻まれた無数の傷が上げる無数の呻き声が、言葉によってしか救われなかったひとりの男の物語を編み上げているように感じた。(続)2013/02/24
夏子
7
アメリカに亡命したキューバ人作家の自伝。「これが本当にあった事なのか?」と信じられなくなるような自身の同性愛体験や幼少期の記憶、そして過酷なサトウキビ農園での労働や刑務所での出来事が一気に押し寄せてきてとても衝撃的な内容でした。私はキューバという国について何も知らなかった。この人の書いた小説を読んでみたくなった。2017/01/26
ムチコ
6
久しぶりの再読。平明な文で短い章を重ねるスタイル自体が、この原稿がどのように書き進められていったかを物語る。少年期の性の目覚めや驚くペースの「エロティックな冒険」における豊潤さは、語れることだけを書いたと言わんばかりの刑務所パートや体調悪化と自由世界への幻滅が窺われる粗いタッチの米国パートと綯交ぜになり、一人の人間が持ちうる多様な面を示して、アレナスという魅力的な人物と深く親しく関わったような気持ちにさせられる。裏切りと密告の世界にありながら「それも仕方のないこと」「ノスタルジーは嫌い」と言う彼が好きだ。2020/10/03
つつま
1
感受性がなせる業なのか、このひとの書く文章には、身体の汗や匂いがこもっているような。特に、「川」。これは詩だと思う。2016/05/28
tindrum
0
その悲惨で陰惨な自伝的過去を作者はさらさらと砂のような乾いた文体で、突き放すように書いている。ユーモアさえある。とても書き終わってからやがて自殺した作者だとは思われない。死は彼にとって、清に自由で、救いですらあったのだろう。2015/11/16