内容説明
収集家として知られるシカゴの大富豪メリウェザーは、ある日訪れた東洋帰りの男から、チベットの秘伝書を買い取った。その聖典には、神秘の力を得る奥義が記されているという。しかし、男はその夜ホテルで何者かに絞め殺され、犯人と目される髭の男は煙のように消え失せていた。おりしもシカゴには、失われた秘伝書を探し求めて世界を半周してきたラマ僧が到着していた。やがてメリウェザーの周辺にも、秘伝書の消失、謎の卍の出現と不可思議な事件が発生、そして雷雨の夜、密室状態の美術室でついに悲劇が起った…。カー、クイーン、ヴァン、ダインに匹敵するアメリカ本格派の驍将クレイスンの本邦初紹介。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
雪紫
11
「密室大図鑑」で紹介されたミステリ。タイトルになった男、殺されるの早っ!密室トリックは起こる前からあるワードが出て来た時点でこれ使って殺すんじゃ。感が強く現場の状況で確信してしまったものの、そのやり口が面白くそれ以外にも、あれ、舞台アメリカだよね?と疑うくらいのチベットに満ちた雰囲気やウェストボローやマックの掛け合い(まさかのすき焼きを食べるシーンも!)。そしてまさかの犯人確定の根拠なども(笑)面白い1冊だった。解説での他の作品の紹介も面白そうだったし出版して欲しいなー。2019/05/25
hanchyan@その解釈でいきましょう(笑)
8
面白かった。黄金期の本格・チベット密教に纏わるぺダントリー・探偵は老いた歴史学者・・・とくれば、相当キアイ入れんと!と臨んだが(笑)、あにはからんや。ウェストボロー教授とマック警部補の楽しいかけあいにのせられて(老境で気弱な金田一に壮年の等々力警部がタメ口でからむ感じ)、思いのほかサクサクいけちゃいました。密室トリックは勘のよい読み手なら見破れそう。けど、なるほどチベット美術館でしか起こりえないトリックだよこれって・・・という感じ。密室よりむしろ、本格におけるぺダントリーの使い方の好例。こういうの好き♪2014/02/21
hirayama46
7
はじめてのクライド・B・クレイスン。1938年にアメリカで発表された本格ミステリ。クイーンとかカーが活躍していた時代ですね。本書は黄金時代においてもややトリッキーな、チベットおよびチベット仏教が深く関わっている作品になっていて、そのあたりの情報量が多く、またそれがミステリとしての要素とも結びついていてたいへん楽しい。トリックやキャラクターの掛け合いにもとぼけた味わいがありますし、なかなか愉快な作品でした。2020/08/08
タリホー
7
『有栖川有栖の密室大図鑑』にて紹介された、東洋趣味溢れる密室ミステリー。東洋帰りの日系人が収集家メリウェザーにチベットの秘伝書を売った後に滞在先の安ホテルで絞め殺され、更にメリウェザー自身が密室状態の自宅コレクションルームで変死する。随所にチベット仏教の蘊蓄を取り入れており、それが密室トリック解明の糸口に用いられているのが巧い(トリック自体はさほどのものではなかったが)。犯人の意外性は弱いが道具立ては良かった。2016/06/09
とぶとり
7
1938年発表。トリックとしては現代の読者には驚きはないものの、その雰囲気と蘊蓄は楽しませてくれます。解説に挙げられた作者の他の作品も読んでみたいので、訳出をぜひお願いします。一つ気になったのは当時の時代背景からしてしょうがないですが、結構日本人はボロクソに言われています(探偵役はフォローしていますが)。2011/08/21