出版社内容情報
島尾敏雄 著
種村季弘 編
世評高い幻想旅行小説「孤島夢」「摩天楼」「夢の中での日常」、架空地震小説「月暈」ほか、「石像歩き出す」「勾配のあるラビリンス」「むかで」「鬼剝げ」「亀甲の裂け目」「死人の訪れ」「冬の宿り」等全13篇。
著者紹介
種村季弘 (タネムラスエヒロ)
1933年~2004年。東京大学文学部独文科卒。國學院大學教授。著作集『種村季弘のネオ・ラビリントス』全8巻(河出書房新社)、訳書ホッケ『迷宮としての世界』美術出版社(共訳)、『怪奇・幻想・綺想文学集 種村季弘翻訳集成』(国書刊行会)などがある。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
63
島尾敏雄作品は「死の棘」しか読んでおらず。短編はこれが初めてですが、まあ、読みにくい。一見すると繋がりがあるか分からないサムネを継ぎ接ぎしたようなぶつ切り的な光景、赤裸々で感情の変化、捉えどころのない女たちへの欲情にそこはかとない嫌悪を覚えて困惑するしかない。特に妻、ナスと子、子之吉との関係性は機能不全だが繋がりを断てない家庭の白々しさは、家族揃っての盆・正月休みと機嫌を伺っていた夕ご飯の時間が苦手だった頃に引き戻されるような気持ちにさせられる。2022/06/09
長谷川透
19
『魚雷艇学生』や「出発は遂に訪れず」は死を予定されながも生き永らえた著者が語るリアリズム小説の傑作であるが、一方で島尾は本書に収められた類の幻想小説も多く執筆している。死を予定され死ぬための訓練を受けた人間が生き永らえた先に見た世界を想像するのはそう難しいことはない。暫くは白昼夢の中を生きるような日々が続いたであろう。夢ならばまだいいが、生きながら死者の世界を生きているような心地であったに違いない。彼の書いた幻想小説の多くは、彼が見た世界を素直に書いた私小説で、彼にとっては生々しいまでの現実なのだろう。2013/09/11
つーさま
14
島尾敏雄の文章はどうも掴み所がない。遠近の感覚が狂っていて、くらくらめまいがするような感じ。だが近くに何か気味の悪いものがあることだけは何となく察しがつく。おそらく著者は相当現実とズレていた人物だったのだろう、不安で歪んだ内面が奇妙な幻想という形をとって噴き出す。そのあまりのおぞましさに胃液が込み上げてくるような感じすら覚える。安部公房や花田清輝とも似ているような気もするが、彼らの作品にこれほどまでの気持ち悪さを感じたことはない。このことが著者への最大の賛辞であることは言うまでもない。2013/08/13
龍國竣/リュウゴク
1
普段通らない道を行き、普段降りない駅に立ち、夢想へ、夢へと入り込んでいく。「うわあっ、何と素晴らしいことだ。之がみんな俺の現実なのだ」(『夢の中での日常』)。そこには拭いきれない不快感が漂っている。エロスだけが純粋な欲望として描かれている。神経症的な世界。2014/10/22
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