出版社内容情報
神西清 著
池内紀 編
応仁の乱に材をとった完璧な歴史小説「雪の宿り」。アンチSF小説とも言うべき「わが心の女」。ルネサンス期の英国を舞台にした「ジェイン・グレイ遺文」。他に、「夜の鳥」「ハビアン説法」「化粧」等全10篇。
著者紹介
池内紀 (イケウチオサム)
一九四〇年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。ドイツ文学者。主要著訳書――『ウィーンの世紀末』白水社、一九八一年。『温泉』白水社、一九八二年。『恋愛読本』彌生書房、一九八四年。『猿飛レゲンデ』沖積舎、一九八五年。ブライ『同時代人の肖像』法政大学出版局、一九八一年。アメリー『罪と罰の彼岸』法政大学出版局、一九八五年。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
58
「夜の鳥」の別の視点から再び見たくなる手腕は巧みである。不遜な説教から幻想的な結末へと至る「ハビアン説法」。「化粧」は「伊勢物語」の「筒井」変曲である。でも女も化粧したくない時だってあるのよ〜。生き別れになった姉について語る「死児変相」の熱心に手紙で語っていた妹の最後での切替ぶりは余りにも唐突だ。彼女は漸く、現実に生きることを選んだのだろうか。「青いポアン」の一対の男女関係よりもそれに対し、一人相撲する少年少女に焦点が当たっていく。少女の母性と冷酷性に対し、少年の潔癖な劣等感と思い込みの激しさが鮮烈だ。2022/04/24
syaori
28
闇の中から浮かび上がり、手に取ろうとするとまた闇の中に沈んでいく、そんな印象の作品集でした。語り手が自分の見たことや体験を語る、古い物語を伝えるといったスタイルの作品が多く、そういった古い物語はすべてを伝えませんし語り手もすべてを語れるわけではありません。語り尽くされない、語り手の思考と絡まった、どこか非現実的であいまいであやしい物語たち。夜の闇に取り残されたような余韻が残る『夜の鳥』、行き方知れずの姉の消息を伝える『死児変相』、悲劇を語りつくさないことで語る『ジェイン・グレイ遺文』などは特に好きでした。2016/10/20
ともゑ
1
青空文庫でロシア文学を読むと訳者がだいたい神西氏。しかし、ふと読んだオリジナル作品が予想外の作風で興味を持った。その初めて読んだ作品が「わが心の女」。まさかのディストピアもの?で衝撃。他のは時代小説もあったりジャンルは幅広い。文は翻訳作品と同じく格調高い。それがまた幻想的な雰囲気を高めて実に良かった。2013/02/06
ホレイシア
1
「紅い花」の訳があまりにも気に入ったので御本人の著作に手を出してみた。こういうケースは初めてだけど、すんごく好み♪。こういうものを書く方を見逃していたとはもったいなかった。やはり表題作が一番だが、他もかなりのもの。目先の変わった短編集をお探しの方にお勧めっす。2009/11/14