出版社内容情報
「カフカの先駆的作品」とボルヘスが推賞する「カルカッソーネ」。ほか、「不幸交換商会」「乞食の群れ」等短篇7篇と戯曲1篇。アイルランドの詩人ロード・ダンセイニの想像力がつむぎだす黄昏の世界。
著者紹介
ロード・ダンセイニ (ロード・ダンセイニ)
本名はエドワード・ジョン・モートン・ドラックス・プランケット(1878‐1957)で、第十八代ダンセイニ城主であることを表すダンセイニ卿の名で幻想小説、戯曲、詩、評論など多くの著作を発表した。軍人、旅行家、狩猟家、チェスの名手という多才なアイルランド貴族だった。『ペガーナの神々』をはじめとする数々の著作により、その後のファンタジイ作家たちに多大な影響を与えた。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かりさ
68
「バベルの図書館」からダンセイニの描く夢の物語たちがあまりに素晴らしく素敵でこれはもうとても好き。夜な夜な謳い夢へと誘う私の子守唄。光り輝く悠久の地、奏でる竪琴の調べ、古今の伝説や妖精、神々の物語…ダンセイニ卿の夢見た世界に漂う喜び。「潮が満ち引きする場所で」私の死骸がどこかへ運ばれる。地獄にすら行き場がない悪夢。掌握作ながら怪奇と幻想の中に死へと向かう絶望の中に芽生える生への希望と喜びが胸をつく。「剣と偶像」永きに存在した至高の石器時代の終わり、人間と神が近しかった頃。神の存在の大きさを色濃く描く。2019/03/02
ヴェネツィア
36
かねてより澁澤龍彦氏の書物などで、御身の令名のお噂は聞いておりましたが、この度ようやく拝謁の栄に浴することができました。ダンセイニ卿はおよそ想像通りのダンディズム作家だった。やはり表題作に、もっとも良くその特質が現れているようだ。幻想文学ではあるのだが、その幻想の質はアラビアン・ナイトのように甘やかなもの。またその全篇はエキゾティズムに溢れるのだが、ケルトの血をひきヨーロッパ文化に育ったダンセイニのそれが、我々にとってもそのままにエキゾティックであることは興味深い。つまり、そこはどこにもない土地なのだ。2013/02/14
内島菫
26
著者が「私は肉眼で見たものについて書くことは決してない。夢みたことについてだけ書く」と述べているように、本書のすべての短編に夢の要素を見出すことができるだろう。中でも「カルカッソーネ」のもどかしさや忘却による無限後退は、夢の大きな特徴といえる。「潮が満ち引きする場所で」では、そういった足踏みによる繰り返しが語り手の夢を形づくっている。「ヤン川の舟歌」では、語り手の故国であるアイルランドが「〈夢の国〉の地図には、そのような場所はない」として笑われ、2018/08/13
みつ
24
ボルヘス篇の『バベルの図書館』27冊目。ダンセイニ卿の名は、乱歩の選んだ名短篇『二壜のソース』の、じわじわと襲ってくる恐怖と飄々とした最後の一文の余韻とともに忘れられない。この短篇集は、それとはかなり異なる傾向の幻想的な作品を収める。悪夢であるはずの『潮が満ち引きする場所で』でも、清潔で爽やかな空気に満たされている不思議。行き着けない場所が主題の『カルカッソーネ』、異国の川を下りつつ出会う光景を描く『ヤン川の舟唄』は、豪奢であると共にくっきりとした輪郭を備えた描写が、ラファエロ前派の歴史画を彷彿とさせる。2022/08/06
藤月はな(灯れ松明の火)
24
ダンセイニ卿の物語はどれも自然への賛美と生の喜びが溢れています。全てを無に帰す死と生による希望の芽生えを垣間見たことにより生への喜びを謳った「潮が満ち引きする場所で」、人類の歴史と神との関係を短い中に濃厚に描いた「剣と偶像」、川を渡ることによって様々な文化圏の人々と出会い、神へ身を委ねるまでの過程を描いた表題作、未来を知ることの絶望と美しい風景との対比を際立たせた「野原」、さらに知ることへの絶望を戯曲という形で描いた「旅籠の一夜」が好きです。この作品集を読んだ後は第九番第4楽章が無性に聴きたくなりました。2012/12/07
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