内容説明
「オオカミ=悪」というイメージ。政治家の利権。野生動物の襲撃。クリアすべき問題は、尽きない。食物連鎖の頂上に立つニホンオオカミが日本で最後に確認されたのは一九〇五年。絶滅したオオカミを外国から移入し、健全な生態系を取り戻す「ネオウルフ・プロジェクト」の試験放獣の地に南アルプスが選ばれた。反対派や地元民の説得、プロジェクトを町おこし程度にしか考えない政治家、中国奥地のオオカミ探索決死行など、環境省・野生鳥獣保全管理官の七倉は幾多の困難に立ち向かう。しかし―。
著者等紹介
樋口明雄[ヒグチアキオ]
1960年山口県生まれ。2008年『約束の地』で日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞。’13年『ミッドナイト・ラン!』でエキナカ書店大賞を受賞。現在、南アルプスの麓に住む(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆみねこ
62
獣害に悩む地域に食物連鎖の頂点に立つオオカミを取り入れたら?オオカミ=悪というイメージ、反対派や地元民の意志、興味本位のマスコミや町おこし程度の認識しか持たない政治家。「約束の地」の七倉父娘はその渦中の人となる。中国でのオオカミ探索行の場面は読みごたえがありました。満月に向かって吠えるオオカミ、一度は目にしてみたいものです。2015/03/06
ポチ
60
獣害の対策として中国から狼を移入する話。物語りは読み応えがあり面白かったが、人間って本当に自分達さえ良ければいいという、エゴの塊なんだなぁとつくづく感じました。連れて来られた狼達は人間に弄ばれて気の毒としか言えませんでした。怒りと哀しさで胸がいっぱいになった読後感です。2017/10/11
あすなろ
53
狼は、猛獣ではあるが、蛮獣ではないー危険な獣ではあるが、放獣するー即ち、食物連鎖のトッププレデターとして頂点捕食者を八ヶ岳に投入。樋口氏も後記でも述懐しているが、そうした想いをエンターテイメント小説の誌上にて試みた作品。ご都合主義は若干あるが惹かれて読了。狼叫(ランチャオ)が始終、耳朶に去来する作品だった。樋口氏作品は初であったが、こうした誌上にての試みは大歓迎である。食物連鎖のトッププレデターの投入により、我が国の自然を取り戻すー確かに、今までの施作は、連鎖中途のプレデター投入だったような気がする。2015/04/04
cryptoryou
41
約束の地の続編。今回はイノシシやシカの個体数の増加による農作物被害の抑制のために、国内では絶滅したオオカミを中国から移入しようとする物語。過去に1年ちょっと農家でバイトをしたことがありますが確かに被害は大きいものがあると実感しました。実際にオオカミ移入計画を考えられている方々もいらっしゃるとのこと。しかし、環境保全、大切な事ですが自然にバランスがとられながら成り立ってきた物を、新たな生物で調整するというのは非常に難しいことだと感じます。中立の立場で苦難に立ち向かう主人公の姿が、問題の難しさを物語ってます。2017/02/10
キムチ
40
「分水嶺」のコメントで見たお勧め本と云う事で。確かに似てはいるが、こちらは「自然と人間どもの勝手な思惑」に的を絞っており、より先鋭的な山岳モノ。絶滅したオオカミ・・鹿・猿・猪等による食害への対策として外来種、しかも狼を中国本土から連れてくる。南アルプスを舞台に七倉親子やマスコミ、住民らの思惑がぶつかり、同時に捕獲を巡って中国奥地大與安嶺でも様々に錯綜。随所に筆者の思惟が埋まっている。読み手はぬくぬくの炬燵、でも頁をめくるとあっという間に八つへ。冷涼感漂い、白い峰々が浮かんできた。2015/02/24