内容説明
失ったものと手に入らなかったものについて、お話しします。クラスメイトの稚拙な行動の理由。パリに降り立った彼女の秘めた思い。忘れ得ぬ在りし日の祖母の姿。他人のものばかり欲しがるあの子。いるはずのない住人の気配。甘やかに秘密を分かち合う二人の女。宿命的な死に蝕まれた村。妻と別れた男に訪れた非日常。言い訳はいらない。もう、とりつくろえない。隠された真実に気づかせてくれる珠玉の作品集。
著者等紹介
近藤史恵[コンドウフミエ]
1969年大阪府生まれ。’93年に『凍える島』で第4回鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。2008年に『サクリファイス』で第10回大藪春彦賞を受賞、本屋大賞2位に選ばれる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
青乃108号
368
近藤史恵は「サクリファイス」しか読んでいない。その作品の面白さに魅了され、続編も読もう読もうと思いながら先延ばしになっているのだが、この短編集。短編も上手な作家だな、と思った。全8話収録されているが、内容も純文学風のもの、ホラー風味のもの、サスペンス風味のものなどバラエティに富んでおり、続けて読んでも飽きがこない。短いページ数ながら最初の書き出しから捻りのきいたラストまでの展開のさせ方は見事である。近いうちに「サクリファイス」シリーズを必ず読もうと改めて思った。2023/12/03
starbro
365
近藤 史恵、3作目です。少しビターな短編集、オススメは、 『金色の風』&表題作『ホテル・カイザリン』&『老いた犬のように』です。 https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/97843349154212023/09/02
旅するランナー
278
ダークな6編に、海外(パリ·モロッコ)で女性が次の一歩を踏み出す2編が、いい塩梅に挟まる短編集。旅するランナーとしては、主人公がパリマラソンに出走して、幸福を感じる瞬間を思い出す「金色の風」が特にお気に入り。僕もパリ20kmレースを走った時の走快感を思い出しました。エッフェル塔スタート/ゴールで、ブローニュの森や、セーヌ川べりを走る、素敵な大会でした。それと、後で調べてみたら、この「金色の風」が「シティ·マラソンズ」の中の1編で読了済みなのも、ついでに思い出しました。2023/09/03
R
238
ミステリと不思議話とが味わえる短編集。読み手と登場人物とのギャップが大きい物語が多く、物語は確かにそういう理屈だけど、客観的に見てそれは正義、あるいは、愛情かと迷うものが多く、考えさせられながらも面白かった。暗い話と明るい話がバランスよく載っていて、どちらも楽しめる贅沢な一冊ですごくよかった。表題作も、はたして愛情だったか、憐憫だったかという古典的なテーマのようでもあり、現代的なジェンダーのようでもある、不思議さが楽しめた。2023/10/23
Karl Heintz Schneider
230
表題作の「ホテル・カイザリン」月に一度、夫の不在時にホテルで一泊し一人時間を謳歌する39歳の主婦・鶴子。自分が泊まる第二火曜日に、一人の女性も必ず泊まることに気付く。同じような境遇にあることを知り、すっかり意気投合したふたりだったが彼女には、とある秘密が。そして鶴子も徐々に変わってゆき・・・。近藤さんの小説を読んでいると、いつも思うのだが出だしから何やら不穏な空気が漂っているのを感じる。それは圧倒的な恐怖ではなく、じわじわと忍び寄る、得体のしれない不安感。でも不思議とそれが不快ではなく、むしろ心地よい。2023/09/19