内容説明
親に偽装転入させられ、進学率の高いチョンミン洞の中学校に通うカンイ、裕福な家庭でモデルを目指すリーダー格のソヨン、チョンミン洞の貧民街に住むアラム。3人は家出を企て、ソウルに辿り着く。しかし、路上生活は厳しいもので、身も心も疲弊した少女たちは家に戻る。その後、自分が頂点に立つために人を貶めるソヨンの態度に、3人の関係は壊れていく。いじめは暴力にエスカレートし、やり場のない感情は暴走の果てに―格差、搾取など大人の加虐に晒されてきた少女たちは、痛ましい選択を繰り返す。最善を望んで最悪をたぐり寄せた、壮絶なる青春群像物語。第4回韓国文学トンネ大学小説賞受賞。
著者等紹介
イムソルア[イムソルア]
1987年生まれ。2013年に中央新人文学賞詩部門を受賞、’14年に韓国文化芸術委員会AYAF優秀作家に選ばれ、’15年に本作で文学トンネ大学小説賞を受賞。’17年詩集『奇怪な天気と優しい人びと』で申東曄文学賞、’20年短編「白く丸い部分」で文知文学賞、’22年短編「蠅のお世話」で若い作家賞を受賞するなど活躍めざましい作家
古川綾子[フルカワアヤコ]
神田外語大学韓国語学科卒。延世大学教育大学院韓国語教育科修了。第10回韓国文学翻訳新人賞受賞。神田外語大学講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぽてち
38
3人の女子中学生の姿を生々しく描いた作品。最初は仲良しだった3人が、リーダー格の恣意的な振る舞いで歪み、やがて破綻していく。それぞれに生まれ育った環境も考え方も異なるのに、なぜ意気投合し、そして憎み合うまでに至ったのかを読み取ることは難しかった。若さゆえの過ちなのか。あるいは韓国の抱える、いじめや教育問題、過度な学歴偏重といった社会の闇が原因なのか。決して他国の出来事とは思えなかったのもつらい。2022/09/24
星落秋風五丈原
21
一緒にソウルに家出しちゃうくらい仲の良かった女子中学生3人組が反発に至る。そうだよねおこちゃまは都会で酷い目に遭うよね。邦題は完全な皮肉。若きぺ・ドゥナ が出演していた映画 「子猫をお願い」 を思い出した。2022/11/21
昼夜
18
韓国は受験戦争が凄いんじゃなくて何もかもがマウントの張り合いなんだなと自分が今、ピラミッドのどこにいるのか把握して常にライバルと競争するストレスがひしひしと伝わってくるけど、その努力より生まれた瞬間に備わってるステータスの方が重視されている競争社会の価値観が切なかった。2022/12/06
二人娘の父
10
昨日観た映画の原作。タイトルの意味は最後の最後で明記される。最高でも、最低でもない。最善。多くの人は常に最善を目指しつつ、受け取る結果はそうはならない。「出来損ない」にならない、というのももう一つのキーワード。14歳の少女がそういう感情になるということは、一体どんな感情なのかという思いがしたが、「誰かにとっての何者かでありたい」思いは、国を超えて年齢・性別、環境を超えて共通なのだろうか。翻訳は古川綾子さん。安定の良訳である。2022/11/30
遠い日
5
ここにもまた韓国の格差社会の弊害が描かれる。高収入で安泰に暮らすために、子どもの頃から苛烈な生存競争を強いられる。学校、受験、就職、住まい。それら全てが他人よりどれくらい上にあるかが是なのだ。偽装転入学で入った学校にも当然カーストはある。女子中学生のカンイとソヨンとアラムの仲が捩くれ、歪んでいったのも格差が子どもたちにも染み込んでいることの証だ。最善のものはなんだったんだろう。自分が自分を追い込んで行くばかりのカンイの立場が、切なく孤独で、胸を絞られる。「出来損ない」の人生は、どこで幕を引くのだろう。2022/09/26