出版社内容情報
古谷田奈月[コヤタ ナツキ]
内容説明
女性首相ミタ・ジョズの活躍の下、同性婚が合法化され、男女同権が実現した“オーセル国”。精子バンクが国営化され、人々はもう性の役割を押し付けられることはなく、子供をもつ自由を手に入れていた。ある日、国家のシンボルとも言うべき“オーセル・スパームバンク”を一人の異性愛者で愛国主義者、タキナミ・ボナが占拠した。彼は、バンクへのスパーム提供を拒み続けている名門大学の男子学生である。「今こそはっきり告発します。ミタ・ジョズはぼくをレイプした。(中略)ぼくの盗まれたスパームのIDは…」彼の衝撃の演説は、突如現れたもう一人の男性テロリスト、オリオノ・エンダがボナを射殺することで幕を閉じた―その場に居合わせた17歳のユキサダ・ビイは、ボナの持つ“言葉の力”に魅了され、新進の無思想ニュースメディア『クエスティ』の記者になり、二人のテロリストの実像を追い求める―男女の在り方を問う、新時代のディストピア小説。
著者等紹介
古谷田奈月[コヤタナツキ]
1981年千葉県生まれ。2013年「今年の贈り物」で第25回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。同作を『星の民のクリスマス』と改題し、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
なゆ
65
ある意味、今の社会と真逆ともいえる世の中を描いてて、なかなか面白い。架空の国オーセルでは、女性がパワーをもち男性は弱体化、同性愛や同性婚が一般的で。異性愛者たちは口に出せない。全国民が精子ドナーと代理母として管理されていて、もちろん子供は人工授精で。性転換だって珍しくもなんともない社会。話は、国営の精子バンクで起きたテロ事件を軸に、テロを起こした男子学生ボナとエンダの背景や、真相とその後など、引き込まれる部分もある。でも、行き過ぎたジェンダーフリーの怖さというか不気味さのほうが強烈に残った印象。2018/01/22
Mumiu
65
猿回しだったつもりが猿になってしまったのかどうなのか訳が分からなくなった、夢みる哀しい「エース」の物語。性と性的指向はその人の重要なアイデンティティ。誰もが尊重されてほしいものだけど現実は厳しい。この物語の背景にある極端なまでのジェンダーと家族観、そして人口対策としてのスバームバンク。未来はなにを選択していくのだろうか。個人的にはビィとハナが会話しているシーンが微笑ましくすきだ。ちょっと盛り込みすぎてる感はあるが面白かった。2017/03/24
巨峰
63
はじめは、この小説のリズムが掴めず、かなり戸惑ったが途中から引き込まれた。性差をなくすためいわゆる男性らしさ女性らしさという価値観を拒絶し、生殖も全て人工的なものを経由して行われる世界。そこにはかえって多様性を失った社会が垣間見える。力強い言葉や鮮烈な表現もあったが、ややラストにかけて冗長で視点がかわったりで分かりにくい。カタカナで名前が綴られているけど、時に姓だけだったり、時に名前だけだったりするので、誰が誰なのか判らなくなりました。これから読む方は氏名だけでもメモしながら読むことをお勧めします。2017/10/08
あじ
45
マイノリティをマジョリティ化し、個人主義思想の広がった社会(同性婚合法化)を描く作品。ハンサムな文章が個人的に好みであり、キャラクターに添えた魅力もまずまずだった。可能性を秘めた新鋭である事が、本作だけで感じ取れる。マークすべき作家の一人に、リストアップしておきたい。2016/12/27
かっぱ
38
同性婚が一般的となった未来世界のはなし。両親はどちらも女性で妹が一人という家庭で育った主人公のひとりは元男性であるが、18歳で女性に性別変更することを決意。男性として付き合っていた恋人があったが、彼女の性転換を機に別れてしまう。過去(我々の時代)の男らしさ、女らしさという言葉が忌み嫌われ、登場人物たちは、誰もが「らしい」振る舞いをしないように生きる。性の解放を叫んで首相となったのは女性の党首。子孫を残すという行為は政府の精子バンクによって管理されている。そこで、起こる精子バンク占拠テロ事件。その結末は?2017/02/18