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内容説明
昭和18年、俳優・加東大介は召集を受け、ニューギニアへ向かった。彼は、死の淵をさ迷う兵士たちを鼓舞するために“劇団”づくりを命じられ、島中の兵士から団員を集め、工夫を重ねて公演する。そしてついには熱帯の“舞台”に雪を降らせ、兵士たちに故国を見せたのだった―感動的エピソードに溢れた記録文学の傑作。
目次
四人の演芸グループ
さようなら日本
三味線の功徳
成功した初公演
スター誕生
墓地に建てた劇場
ニセ如月寛多
本格的な稽古
別れの“そうらん節”
マノクワリ歌舞伎座〔ほか〕
著者等紹介
加東大介[カトウダイスケ]
俳優。本名、加藤徳之助。明治44年浅草生まれ。東京府立七中を経て、昭和4年に二代目市川左団次の門に入り、市川莚司を名乗る。昭和8年前進座に入座。18年衛生伍長として応召、21年に復員。戦後は舞台、映画、テレビで活躍した。昭和50年没
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
コットン
73
読メ大阪オフ会:ひらけんさんのビブリオバトル紹介本。俳優加藤大介の過酷なニューギニア戦線でのそんな状況だからこそ劇団を作ろうとするノンフィクション。大尉から「娯楽じゃない。生活なんだよ。きみたちの芝居が生きるためのカレンダーになってるんだ。」と言われたり、南の島に雪を降らせた演目の後、二人の病人に雪を見せ、病人が紙の雪をつまんでは放し、放してはつまむ動作をくり返している。と書かれ極限での望郷の念が手に取るように切なく分かる。2018/02/07
yamatoshiuruhashi
62
加東大介の喜劇映画を見たところで、彼の演技の背景をもう一度読みたくて出張のお供に持参し幾度めかの再読。前回の再読登録はちくま文庫版だったが今回本棚から持ち出したのは光文社文庫だった。読んでは息子や人に読ませるために渡してきたので、色々な版が本棚にあり次々に人手に渡る。それでもまた読みたくなる。極限の状況で人は何を求めるのか。多くの人々の心を救うために生還の可能性が高い内地転属を断ってまでも、ニューギニアに残り、飢えと爆弾の中での公演を続ける。何度読んでも心揺さぶられる。帰ってDVD観よう。2023/10/17
NAO
22
大阪道頓堀中座の楽屋で召集された加東大介が向かった先は、西部ニューギニア、マノクワリ。常に死と向き合わせの状態にいる兵隊たちのため、司令部は加東に劇団づくりを命じた。マノクワリ演芸分隊の定期公演は島中の日本兵の愉しみとなり、兵士たちは休暇を与えられると、演芸を見に島中から集まってきて、中には戸板に乗せられて運ばれてくる負傷兵もいた。精神論だけで無理な戦いを強いた軍人が多かった中、このように人道的な司令官たちもいたのだ。どんなときにも、娯楽は人の心を和ませる。劣悪な状況にある戦場ででも。 2015/07/14
ikedama99
16
本棚で手に取り、一気に読み進める。ドンパチはなくても戦争という非日常の悲惨さを、日常を入れることによって、より強く表現していると思う。と同時に、人間は日常を大切にしているし、この演芸分隊はそれを支える最後の砦みたいなものになったのだと思う。タイトルになった雪のシーンもすごいが、最後の蛍の光の合唱のシーンはぐっときた。人間のおかれた極限状態を、どう生かそうかと工夫をする。その心の大切さも感じた。いい本を再読した。2018/10/09
小豆姫
14
まるで喜劇映画を観てるような、ここまで明るく軽妙なタッチの戦争ノンフィクションはちょっとない。それもそのはず、著者は昭和の名優だもの。一発の銃声も戦闘もなしに、南国のジャングルで知恵と工夫と熱意と連帯で劇団を立ち上げ舞台をつくり興行する、あっぱれな奮闘ぶりを描ききる。観客は飢えとマラリアによって瀕死の、同じ兵士たち。苦心して集めた白い布と紙を舞台に降らせるシーンは美しくて、故郷を思いむせび泣く姿に、ああ、凄絶なる描写を束にしても負けないくらい戦争のむごさと悲しさが胸にせまる。2020/08/12