内容説明
盲目の人気作曲家は療養のため故郷アイルランドの邸に移り住む。その庭には古代遺跡の名残とされる石柱が立っていた。夜ごと彼の耳に悲嘆と苦悩に満ちた不思議な合唱が聞こえるようになり…(第1話「石柱」)―霧の海に育まれた豊かな神話・伝承と、イギリスの度重なる苛烈な植民政策に抗した農・漁民の怒りと嘆きを、ピーター・トレメインは、哀しみの幻想小説集として昇華させた。アイリッシュ・ホラー初紹介。
著者等紹介
トレメイン,ピーター[トレメイン,ピーター][Tremayne,Peter]
本名ピーター・ベレスフォード・エリス。著名なケルト学者。7世紀アイルランドを舞台にした歴史ミステリー『尼僧フェデルマ・シリーズ』は、現在16作
甲斐万里江[カイマリエ]
早稲田大学大学院博士課程修了。英米演劇、アイルランド文学専攻。翻訳家
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感想・レビュー
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tom
25
トレメインのフィデルマは、十分に楽しんだけど、飽きてしまった。短編の方が面白かったと思い、そこで気づいたのがこの本。まあまあか。それにしてもアイルランドという国、ギリシャ語、ラテン語についで古い言葉(ゲール語)を持つ。有史後の北ヨーロッパで最初に登場した民族。フィデルマにも書いてあったけれど、文明の最先端だった。その国がイギリスに犯されて、グチャグチャになってしまう。そういう苦難と悲惨をアイルランドの神話を援用して書く幻想物語。「恋歌」がよかった。楽しくもあり、悲しくもあり。最後のオチに参る。2022/04/15
rinakko
17
再読。素晴らしい。死を予告するバン・シイの哀しい泣き声は、やがてアイルランドの慟哭へと繋がっていく。小昏い幻視の世界に打ち震え、古の呪いに息を吹き込まれた怖ろしくも美しい情景に心魅かれてやまない、民話や伝説から着想を得たアイリッシュホラー短篇集。そしてまた、アイルランド史上に甚大な影響を及ぼし、トラウマティックな事象として時に忌避されてきたという大飢饉についてなど、あらためて重く辛く受け止めながら読んだ。身の毛もよだつ読み心地と、暗く沈んだ色彩がしみじみと好みだった。金色と小豆色とくすんだ緑の秋、2016/09/17
YO)))
16
ゴシック・ホラー短編集.外連味の効いた王道ホラーに,アイルランドの神話や伝承,そしてイギリスとの血みどろの歴史が,大変奥深い陰影を与えている.2014/02/11
かめた
8
アイルランドの豊かな民話・伝説群と過酷な歴史背景を根源とする恐ろしくも哀切な物語の数々。バン・シイの声が聞こえませんように。。。2018/05/20
ハルバル
8
アイルランドの民話や伝承を基にした幻想短編集。歴史上、イギリスに侵略と抑圧を受けてきたアイルランド人の憎悪や悲哀が近代に噴出した形をとることが多く、大飢饉や土地没取に虐殺という悲惨な歴史を背景にして語られる恐怖は、おぞましさよりもそうした哀しみを強く感じざるを得なかった。そんな中でも異色なのは「深きに棲まうもの」で、なんとクトゥルフ神話とアイルランド神話を融合させた話で、インスマスの地名も登場していて、ニヤリとさせられた。2017/02/26