内容説明
アムステルダムの場末のバーでなれなれしく話しかけてきた男。彼はクラマンスという名のフランス人で、元は順風満帆な人生を送る弁護士だったが、いまでは「告解者にして裁判官」として働いているという。五日にわたる自分語りの末に明かされる、彼がこちらに話しかけてきた目的とは?
著者等紹介
カミュ,アルベール[カミュ,アルベール] [Camus,Albert]
1913‐1960。仏領アルジェリア出身のフランスの作家。家庭の貧困や結核に苦しみながら、アルジェで大学までの教育を受ける。演劇活動や新聞社での仕事などを経て、1942年に人間存在と世界の不条理を主題として小説『異邦人』と哲学エッセー『シーシュポスの神話』を刊行。戦中・戦後はパリでレジスタンス的姿勢の新聞「コンバ」の編集に携わり戦争についての論説を発表した。1947年に小説『ペスト』で高い評価を得た後も、長篇『転落』、短篇集『追放と王国』、戯曲『戒厳令』『正義の人びと』、哲学エッセー『反抗的人間』などを発表し、1957年にノーベル文学賞を受賞した。1960年、自動車事故により46歳で死去
前山悠[マエヤマユウ]
1981年新潟県生まれ。パリ第七大学(現パリ大学)博士課程修了(文学博士)。学習院大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。大分県立芸術文化短期大学専任講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
43
5日間にわたる自分語り。元は順風満帆の弁護士であったにも関わらず、今では「告解者にして裁判官」へと転落したのですね。ひたすら独白が続きますが、罪の告白と言えるでしょう。誰でも自己中心になり得ることを教えられた気がします。2025/01/14
ころこ
41
「告解者にして裁判官」とあるが、重要なのは言うまでもなく裁判官の方だ。偽善を告白することで悪を捏造し、審級になってしまえば、あとは相手を裁くだけとなる。現在でも、少し前は政治系の討論番組で、現在ではSNSの泥試合で使われている。解説にあるように、本作のモチーフがサルトルとの間で交わされたのは政治的な立場の違いについてだというのはむべなるかな。タイトルの転落はまずは溺れる女、一人称話者クラマンス。そしてこの詐術に陥った一人称の聞き手である読者というオチが本作の持ち味だ。2024/10/12
ポテンヒット
14
この本は解説やあとがき、ネタバレ感想を最初に読まないで本文を読んだ方が数倍面白いと思う。話しかけてきた男クラマンスのいう「告解者にして裁判官」とはどういう意味なのか、彼に何があったのか、近づいてきた理由は何なのか、「転落」とは何を意味するのかを探りながら読む面白さがある。彼の人間を見据える悪魔のような冷徹さに心奥を覗き込まれた思いがして肝を冷やす。読了後に解説を読んで、カミュがこの本を書いた背景を知り唸る。2023/06/23
fseigojp
13
読書会課題本 カミュ最後の小説(未完はあるが、完結はこれが最後) 長編は、異邦人、ペストとこれだけ いかに若くして名声をえたかがわかる ちなみにノーベル文学賞の最若年受賞はキップリングで41歳、カミュは43歳で2位だ2023/08/05
amanon
7
何とも言えず奇妙な小説というのが第一印象。終始一貫して主人公独白で綴られるのだが、その独白からは独白の相手の描写が殆どなく、しかも最後であかされるその相手の職業というのが、主人公の元の職業と同じ弁護士というのが何とも暗示的。それに、訳者解説でも指摘されているように、実はその独白の相手というのが、主人公自身だという可能性もあるというのだから、なおさらややこしい。そして何より、その解説で、本書の背景にあるのが作者とサルトルとの絶縁にまで至らせた論争があるというのも驚き。その事実を踏まえたうえでの再読が必要。2025/01/31