内容説明
十字軍の停戦協定が成立したエルサレム。キリスト教徒のテンプル騎士に養女を助けられたユダヤの商人ナータンが、イスラムの最高権力者から「3つの宗教のうち本物はどれか」と問われる。「寛容と人類愛」を説いた思想劇。付録に“指輪の寓話”(『デカメロン』)、“寓話”(レッシング)。
著者等紹介
レッシング,ゴットホルト・エフライム[レッシング,ゴットホルトエフライム] [Lessing,Gotthold Ephraim]
1729‐1781。ドイツ啓蒙主義を代表する劇作家・批評家・思想家。フランスの古典主義を脱し、シェイスクピアをドイツに根づかせるなどして、レッシング以降のドイツの演劇と文学の方向を決定した
丘沢静也[オカザワシズヤ]
1947年生まれ。ドイツ文学者。東京都立大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nobi
71
「賢者ナータン」の真のテーマ−「人間であることで十分だ。」−は、この戯曲のいたるところに満ちている、とH.アレントは、レッシング賞受賞講演で指摘している。確かに賢者ナータンの語る言葉には、12世紀第3回十字軍の時代のエルサレムが舞台とは思えないような伸びやかさを感じる。レッシングの生きた18世紀もまた宗教的軛が強かったよう。聖書批判に絡む論争の果て彼は宗教関係の出版を禁止されている。無理強い的現代風の訳にも、すぐに上気せる騎士にも違和感あって、劇にも最後まで入り込めなかったけれど、どこか清々しさは残った。2022/09/01
ころこ
31
『ラオコオン』のレッシングがこの様な戯曲を書いていたそうで、全く知りませんでした。18世紀に他の宗教に対する互恵的な寛容さを表現した先進的な思想に驚きます。あからさまに啓蒙的な底の浅さが気になりますが、それは現在の視点であって、あまり込み入ってしまうとかえって禁忌に触れる恐れに配慮したのかも知れません。現在もこの戯曲が残っているというのが客観性の高い評価だといえます。2020/11/28
かふ
26
中世のエルサレムでユダヤ教、キリスト教、イスラム教が交わる寓話。戯曲で啓蒙を問いたレッシングの代表作。レッシングは名前も知らなかったが、「100分 de 名著 フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い仮面』」で出てきて興味を持った。カントに影響を及ぼした啓蒙思想家。ユダヤ人の娘を火中から救い出したテンプル騎士の男。最初から名前が明らかにされないで役名で呼ばれているのは注意が必要。2021/04/13
泉のエクセリオン
17
18世紀ドイツの啓蒙思想家レッシングの戯曲。イスラム、ユダヤ、キリスト教の内どの宗教が最も神に愛されているかということが「三つの指輪の寓話」を通じて語られる。恐らく、レッシングの答えとしては、どの宗教も神の真理の途上にあり、神に愛されるために各々の宗教が真理探究に努めよ、ということか。宗教が(聖書が、文字が)真理なのではなく、真理を探究する己の行動が大事である。つまり宗教を自分の頭で考え、自分の言葉で語ることが真理を追究し続けることだと思った。真理は分からないから、考え続ける、問い続けるということだろうか2021/10/31
フリウリ
11
人それぞれ自分の宗教を大切にしているのだから、どの宗教が一番かを競うのはやめましょう、というのが主テーマですが、これを宗教的権威が強い国にあって述べることは、いつの時代であれ、勇気と信念が必要と思いますし、実際にレッシングは、検閲なしに出版できない境遇だったそうです。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教はみな「アブラハムの宗教」なのに、対立して人殺しまでするのは、どんな理屈があれ野蛮の極み。その野蛮に対して堂々と異議を申し立てられるナータン(とレッシング)は、確かに賢者であると思いました。1779年刊。72024/05/29