出版社内容情報
前2作とは異なる「狂気」「妄想」「幻想」などをテーマに、いわゆる“怖い話”(ホラーではない)で編んだ傑作選。8編を収録。
内容説明
部屋の中に目に見えない何かがいる…。妄想と狂気に呑み込まれていく男の日記「オルラ」。若き日の苦い思い出を浄化し、穏やかに過ごす老司祭のもとに、ある日、みすぼらしい身なりの若者が訪ねて来る。人生を揺さぶる直視し難い過去との対峙を描く「オリーヴ園」など8篇を収録。
著者等紹介
モーパッサン,ギィ・ド[モーパッサン,ギィド] [Maupassant,Guy de]
1850‐1893。ノルマンディ生まれ。パリ大学在学中に普仏戦争に遊撃隊員として従軍。その後海軍省に勤務。母の紹介でフローベールと知り合い、作品指導を受ける。30歳の時に発表した「脂肪の塊」が絶賛され、作家専業となり、33歳の時に発表した『女の一生』はベストセラーになった。旺盛な著作活動を続けたが神経系の発作に襲われ、苦痛から逃れるために薬物に溺れた末、自殺未遂事件を起こしパリの精神科病院にて死去。主要な作品に『ベラミ』『ピエールとジャン』など。また300を超える短篇を残した。その作品群は日本の近代文学者たちに大きな影響を与えた
太田浩一[オオタコウイチ]
フランス文学翻訳家。中央大学兼任講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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星落秋風五丈原
41
「ラテン語問題La Question du latin」 ラテン語教育に力を入れていることで有名なロビノー学園が、コンクールで優秀な成績を収めてきたのは、次週監督ピグダンの親父のおかげである。彼の個人教授を受けることになった僕は、ピグダン親父にある日煙草を勧める。僕はピグダン親父がそのうちの一人にどうやら好意を持ったらしいと気づく。キューピッドを買って出た僕の顛末は。やはりモーパッサンというと『脂肪の塊』のイメージが強いようだが、この作品の軽さときたら。ラスト、ピグダン親父の台詞にはつい頷いてしまう。2022/05/27
tokko
27
モーパッサンといえば、以前岩波文庫の赤で読み漁った時期がありました。おそらく15年以上前だったためか、そんなに印象に残らなかったように思います。けれど歳をとったせいか光文社文庫で読んだせいか、モーパッサンの味わい深さがわかるようになったと思います。なんとなくしっくりこない終わりかたなんだけど、そういうのも「あり」かと思えるようになったのは、やはり歳をくったせいでしょうね。2020/10/08
nami
20
哀愁に満ちたシニカルな滑稽譚でこそ著者の本領は発揮されるのかもしれないが、「ラテン語問題」などのように、シンプルな構成ではあるが、微笑ましくてクスリと笑える物語もまた良い。けれど、やはり表題作二編が一際異彩を放っていた。幻想的で不気味な「オルラ」は、個人的に大好きな設定の物語。見えない、けれど確かに“何者か”がそこにいる。正体が掴めない者がすぐ近くにいる恐怖、それによって精神を蝕んでいく過程に鳥肌が立った。「オリーヴ園」の暗闇のシーンでは、ナボコフの「カメラ・オブスクーラ」のラストシーンを思い出した。2024/01/16
ROOM 237
18
19世紀末にしては、前衛的で進んだ思想をぶちかましたんでない?と思われるモパアさん。黒人女性に恋する話、女性側の立場を慮る話など読んでいて気持ちがスッとするのがたまらねえや。マイベストはあまりに有名な怪奇幻想作「オルラ」なんだけど、初読み「オトー父子」がしみじみとした温かさで良い。あぁ実はそうだったのか的小さな真相が、わんこ蕎麦よろしく小出しではいよっ!まだ蓋するの早いよ!と出してくる、短編なのに。モパアさんはラスト一行でショック死させてくる話が多いから警戒しながら読む反面、温かい話は余計に沁みます。2023/10/17
qwer0987
13
粒ぞろいの小品集。個人的にはベタだが『ラテン語問題』が好き。あれほどラテン語にこだわり新しい事態を恐れていたのに、生徒のいたずらで女と結ばれたところで宗旨替えする。しかしそれは悲喜劇でなく柔軟な人間の姿を見るようで好ましかった。また『ボワテル』の根強い偏見により破局する男女の哀切が忘れがたい。他、想像通りの結末だがにやりとさせられる『オトー父子』、妻の嘘により対等の関係になれた夫婦の姿が印象的な『あだ花』、不気味な後味がすばらしい『オルラ』、やり手すぎる女の姿とオチのシニカルさが良い『離婚』の順で楽しめた2024/10/17