内容説明
友と恋人に裏切られ、神にも絶望して故郷を捨てたサイラス・マーナーは、たどりついた村のはずれで、機を織って得た金貨を眺めるのを唯一の愉しみとする暮らしをしていた。そんな彼にふたたび襲いかかる災難…。精細な心理描写とドラマチックな展開が冴えるエリオットの代表作の一つ。
著者等紹介
エリオット,ジョージ[エリオット,ジョージ] [Eliot,George]
1819‐1880。英国ヴィクトリア朝を代表する小説家。本名メアリ・アン・エヴァンズ。中部の土地差配人の家に生まれ、寄宿学校で教育を受けた後、自宅で外国語などさまざまな学問を独学で学び、30歳で評論雑誌の編集者補佐に。1857年、男性名「ジョージ・エリオット」で小説を発表(翌年『牧師たちの物語』として書籍化)。以後、小説を次々と発表し、成功をおさめる。’71年~’72年に分冊刊行された『ミドルマーチ』はヴァージニア・ウルフをはじめとする後世の作家たちに賞賛され、現代でも英国小説の最高峰との呼び声が高い
小尾芙佐[オビフサ]
1932年生まれ。津田塾大学英文科卒。翻訳家。訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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こーた
250
あまりに良い話で、ニコニコ笑いながらおいおい泣いた。ガーディアン1000冊のジャンルはstate of the nationだが、crimeありcomedyあり、family&selfであり、またloveにもあふれている。家族とはなにか、結婚とはなにか、そして信仰とはなにか。田舎の村にはコミュニティがあり、貧者がいて富者がいる。遠くには都市があって、その都市からやってきた孤独な男は、物語に襲われ、また救われる。すべての登場人物が生き生きとして愛おしい。読むことの幸福。小説のひとつの理想形ではないだろうか。2021/03/16
アン
113
深い絶望を抱え、故郷を去った純朴な機織り職人サイラス。彼は見知らぬ土地で、稼いだ金貨を慈しむように眺めるだけが愉しみの暮らしとなり、再び災難に見舞われますが…。断ち切られた信頼と愛情、癒しを求める枯渇した魂。やがて孤独な彼に訪れる突然の出来事と決意は、この小説を織り成すもう一人の男性の物語と深く関わっていきます。秘密と良心の呵責、後悔と安堵。サイラスがよろこびを見つけ魂が甦り、隣人たちと情愛を結んでいく様子はあたたかな気持ちに。花々に囲まれたラストの場面は穏やかな幸福感に満ち、愛の絆に胸を打たれます。 2020/03/24
ペグ
90
初読でありながら何故か懐かしいこの書名〜小さな子どもの頃、本棚から取り出して最初に(小説)という物を読んだのがこの「サイラス・マーナー」でした。何故手に取ったのかも思い出せずましてや内容も覚えていない。今回読んで。あぁ読んで良かった〜サイラスの不幸と幸せの人生。失意の15年の後に託された小さな命。淡白な表現で描かれた人々の暮らしぶりもほっこり。優しい手応えの作品でした。ちょっと疲れた時に読む。寒い心に暖まる作品でした。2019/10/21
やいっち
80
94年に「ロモラ」を読んで以来のエリオットファン。物語としてさすがにドラマチック。同時に、古典らしいある意味、出来過ぎかなと思わせる展開でもある。ブロンテ姉妹など近代の小説を読みなれた我々には突っ込みところ満載だろう。女の子を預かって育てて危ないことはなかったのか……。それでも、随所に鋭い描写があって、退屈させずに読ませてくれる。次はいよいよ、「ミドルマーチ」に挑戦したい。2020/03/27
アキ
72
1861年イギリスで出版。著者ジョージ・エリオットは出版時に男性名であった。赤屋敷での宴会とモリーの行く雪の道、サイラス・マーナ―の秘かな喜び金貨と黄金のかたまりのような子どもの金髪、エピーの目の前に現れた実の父親ゴッドフリーと育ての親マーナ―。鮮やかな対比と類似を際立たせ、金貨を盗んだダンスタンを最後に登場させ、一気に展開するプロットに美しい庭を象徴とする幸せな家族を示すラストシーンまで一流のエンタメ小説。夏目漱石が英国から帰り東大のテキストに使ったというエピソードもある。女性たちの人生模様も興味深い。2020/02/16