出版社内容情報
コルタサル[コルタサル]
著・文・その他
寺尾隆吉[テラオ リュウキチ]
翻訳
内容説明
古い大きな家にひっそりと住む兄妹をある日何者かが襲い、二人の生活が侵食されていく「奪われた家」。盛り場のキャバレーで、死んだ恋人の幻を追う「天国の扉」。ボルヘスと並びアルゼンチン幻想文学を代表する作家コルタサルの「真の処女作」である『動物寓話集』。表題作を含む全8篇を収録。
著者等紹介
コルタサル,フリオ[コルタサル,フリオ] [Cort´azar,Julio]
1914‐1984。アルゼンチンの作家。ベルギーのブリュッセル生まれ。1918年、家族揃ってアルゼンチンに帰国。大学退学後は首都ブエノスアイレスを離れて地方都市で教員生活を送るが、’45年にブエノスアイレスに戻り、教職を放棄して文学作品の翻訳や短篇、文学論の執筆、通訳資格の取得などに意欲的に取り組む。’46年、ボルヘスに認められ短篇「奪われた家」を雑誌に発表。’51年に留学したパリにとどまり執筆活動を続ける。’63年発表の『石蹴り遊び』が大成功を収め、’64年の『遊戯の終わり』増補版で作家としての地位を確立させた。’84年パリで死去
寺尾隆吉[テラオリュウキチ]
1971年生まれ。フェリス女学院大学教授。ラテンアメリカ文学研究者、翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
95
まさか、新訳古典文庫にコルタサルが仲間入りするとは…、感無量である。岩波文庫版で既読のものも多し。昔は不思議な物語として捉えていた物語たち。しかし、アルゼンチン映画(例:『瞳の奥の秘密』や『エル・クラン』など)を観るようになってからは、「あれこの描写ってもしかしてこの時代の比喩なのか…?」と思う所があって背筋がゾワゾワするものがある。「偏頭痛」は偏頭痛持ちの人なら分かる感覚の描写が実に的確だ。そして「天国の扉」はもう、いない人と過ぎ去ってしまった時への苦味を噛み締める。2018/09/07
mii22.
69
コルタサルの描く幻想の世界は間違いなく私の好みだ。目に見えないもの、得たいの知れないもの、不思議な現象、そこに宿る不安と恐怖。何が何だかわからないが考える暇など与えないほど、ぎゅっと心掴まれ最後まで引っ張られる。読み終った後の置いてきぼり感にようやく現実に帰る。お気に入りは「奪われた家」と「バス」。怖さはあるのにどこか明るくカラッと渇いている感じが好き。2018/12/20
nobi
67
ありえないはずなのに、それが喉から込み上げてくる時の触感は生々しく(パリへの…)、理由不明の展開なのに物音(天国の扉)にも視線(バス)にもいつしか怯えてしまったり…。事態の非現実感と視覚聴覚触覚上の現実感が綯い交ぜになって収斂するともなく放り出されてしまう…。そんな中「動物寓話集」では、夏休み、少女イサベルが親戚宅で過ごす心許なさと取り巻く情景に引き込まれる。飼育箱のアリの離合集散怒りを露にするカマキリ動き出すカタツムリといった生き物達と、叔父叔母たちの侘しさ理不尽さ優しさといった人間の営みの絶妙な交錯。2023/03/21
えりか
54
何者かの気配に怯えながら生きる人間。ソワソワとした不安感をかきたてる。「天国の扉」死して自由を手にいれた女の姿とそれに気づいた男の切なさ。女にとっての天国とは……。息苦しいほどムワッとした煙に覆われたキャバレーの現実と幻想が入り交じる切なさのある素晴らしい作品。「バス」面白怖い。少数派の人間に向けられる多数派の悪意とそれに屈しない男女の勇気というか、彼らは自由の象徴のようだ。あの虫は、あの動物は何を象徴しているのかと考えるのも興味深いし、感覚的に幻想世界をさまようのも楽しい。2018/06/17
拓也 ◆mOrYeBoQbw
45
幻想短篇。二十世紀最高峰の短篇作家の一人フリオ・コルタサルの処女短篇集です。この短篇集はまず(表面上見えなくても)男女関係を題材にし、尚且つブレノスアイレスの都市幻想を中心に描かれているのが特徴的です。隠喩的にカフカ的な架空生物や、見えない何かに怯える人々が登場しますが、コルタサル作品でもモチーフが分かり易く、ぼんやり読んでも入り込める、マジックリアリズム初心者向けの一冊と言えるかと思います。そして読み込めば読み込むほど、作品の深淵と刃の鋭さに気付ける初期作品ながら真骨頂を味わえる傑作短篇集ですね。2018/06/15