内容説明
西暦2540年。人間の工場生産と条件付け教育、フリーセックスの奨励、快楽薬の配給によって、人類は不満と無縁の安定社会を築いていた。だが、時代の異端児たちと未開社会から来たジョンは、世界に疑問を抱き始め…驚くべき洞察力で描かれた、ディストピア小説の決定版!
著者等紹介
ハクスリー,オルダス[ハクスリー,オルダス] [Huxley,Aldous]
1894‐1963。イギリスの作家。祖父、長兄、異母弟が著名な生物学者、父は編集者で作家、母は文人の家系という名家に生まれる。医者をめざしてイートン校に入るが、角膜炎から失明同然となり退学。視力回復後はオックスフォード大学で英文学と言語学を専攻し、D・H・ロレンスなどと親交を深める。文芸誌編集などを経て、詩集で作家デビュー。膨大な数のエッセイ、旅行記、伝記などもある
黒原敏行[クロハラトシユキ]
1957年生まれ。英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
WATA
87
SF小説の古典的名著。1932年に書かれた本だが、世界の安定と人々の幸福を維持するために、すべてを科学的にコントロールしようとする社会、という世界観は今でも古臭さを感じない。科学至上主義への風刺・批判文学として、非常に優れた小説。その一方で、純粋な物語として読むとやや物足りなさも感じる。特に後半は唐突で必然性のない展開が目立つ。限られたページ数の中では広げすぎた世界観をうまくまとめきれなかった、という印象を受けた。素晴らしい点とそうでない点がどちらも際立っている、評価の難しい本。2014/07/28
cockroach's garten
75
ディストピア小説の中でも本書とジョージオーウェルの『1984』が最も有名で傑作とされている。そんな本書であるが教育や道徳までも全てが管理された管理社会の容貌が描かれているが本書はそれ以上にディストピア小説のストーリー性を超越した現代社会からも読み取れると警告を発しているような哲学的な要素が見えた。特に後半の方ではそれについて否応無しに考えさせられるかもしれない。重要なのは果たしてこれが極端な管理社会のみの狂気であるのだろうか。恐らく何気ない生活の内にもこの狂気の断片が潜んでいるのではなかろうか。そう感じる2018/07/05
NAO
69
恋人や家族という観念はなく、遺伝子選別による階級分けで工場で作られる人間たちには辛さも不満もない。フリーセックスと鬱になったら快楽薬ソーマで陶酔状態になればいい。だが、孤独も辛さもない「すばらしい新世界」といいながら、最上階級に属するバーナードやヘルムホルツは孤独にさいなまれているのはなぜか。何より、この世界が最上の支配階級の視点で描かれていることが気になる。結局、素晴らしいのは、支配者階級にとってだけではないのか。劣った条件で作られる下層階級の人々から見たこの世界はどうなのかが、気になって仕方なかった。2016/03/04
tokko
69
作者の未来予想が当たっているか外れているかは、それほど問題ではない。個々の予想は些末な問題で、本質的な問題は文明を操る人間の可能性を問うたところだろう。この社会では幸福とは安定性であるけれど、そのために払った代償は大きい。こんなふうに「人々が何も考えなくなるような社会」は空想上の世界なんだろうなと思いつつも、意外とすぐそばまで実現しているような気もして怖い。2014/09/06
藤月はな(灯れ松明の火)
69
この本で描かれる未来は清潔が徹底された場で人工授精とデザインベビー、本や自然に興味を持つと電流などが奔る刷り込み教育、促される子供同士での性行為、薬物による痛みや悲しみなどへの解放が可能になった世界。最近、過剰な画一化によるユートピア=ディストピアを描いた『ハーモニー』を読んだばかりなので疑問すらも持たない家畜のような人類により一層、嫌悪感が募ります。政府もない未来と共産主義を提唱した人物に因んだ登場人物名は『1984年』同様、無政府状態を目指す共産主義への警鐘だろうか?ラストのジョンが悲惨すぎる・・・。2013/08/12