内容説明
「私の音色は薄緑なの」ヴァイオリンのような甘美な声で娘は言った…。“勇気と想像力ある秘書求む。当方は隠退した聖職者。テノールの声とヘブライ語の多少の知識が必須”。謎の求人に応募した主人公が訪ねたのは、人里離れた屋敷だった。そしてそこには美しい娘がいて…。
著者等紹介
ブラックウッド,アルジャーノン[ブラックウッド,アルジャーノン] [Blackwood,Algernon Henry]
1869‐1951。イギリスのケント州に生まれる。19歳でエディンバラ大学入学、農業を学ぶ。21歳でカナダに渡り、家庭教師、雑誌の編集助手などを経たのち、酪農の会社をつくるが、翌年経営破綻。26歳で「ニューヨーク・タイムズ」の記者、28歳で億万長者ジェイムズ・スペアーの個人秘書になる。1899年、30歳でイギリスに戻り、知篇「幽霊島」を発表。31歳で宗教団体「黄金の暁」教団に入団。1908年、連作短篇集『ジョン・サイレンス、異能の医師』で成功、専業作家となる
南條竹則[ナンジョウタケノリ]
東京生まれ。小説『酒仙』で第5回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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takaichiro
87
怪奇小説の巨匠ブラックウッド。本作は怪奇というより幻想・神秘的なストーリー、つまりファンタジー作品。2次元の文書作品を入り口にオーケストラホールに招かれ、重層的なハーモニーが聞こえ、時にオペラを鑑賞している様な不思議な感覚。大人のセンスで着飾ったオーディエンスと荘厳な舞台に惹き込まれていく時を過ごしている感じ。日本の文豪の中にも戯曲作品を書く人がチラホラいますが、テキストだけで3次元的なイメージを表現ができるセンス・異能異才を授けられたクリエーターが目指すべき領域なのかもしれませんね。2019/12/29
HANA
42
秘書の広告に応じた男。という冒頭のストーリーから「秘書奇譚」を思わせるがその先で待っている展開がまるで違い、物語は恐怖ではなく神秘的な様相を呈してくる。超弦理論や宇宙は音に満ちているという説、忌名等を思い起こさせられた。名前を通じて物の本質が現れる、神秘が顕現してくるという話はよく見かけるが、それと隠秘学を組み合わせて圧倒的な小説にしたのは流石幻視者ブラックウッドといった感じ。ただ解説にもあるが、言葉で語り尽くせないものを言葉で語ろうとしているという感が出ている。やっぱり不立文字という境地はあるものだ。2013/05/18
nobi
36
一風変わったタイトルに「ヘブライ語の多少の知識が必須」との謎の求人(裏表紙)。旧約の世界にタイムスリップか?存在と名前との不可分の関係、和声の波動が存在の形態を変えうるという着想の展開も興味を唆る。サイレント映画の映像的表現発展の影響もあったかも知れない。ただP.オースター、C.マッカーシーらの死を身近に感じながらの一人称の隙のない濃密な語りにしばらく浸ってきた身には、どこかお気楽な感じを否めない。怪奇でもファンタジーでもその世界を支えるリアリティが肝要。もっと迫っていたなら一人称の語りとしていたのでは。2016/05/14
ラウリスタ~
12
うーん、正直そんなに面白くはない。ブラックウッドのなかではまだ読めるという訳者の言葉を信ずるなら、この人の作品相当冗長なんだな。結局は、ポーの『アッシャー家の崩壊』にちょっとした変奏を加えた長編なんだろうな、長編ホラーを形容矛盾だと看破したポーに考えを改めさせるほどの作品ではない。「初めに言葉があった」とYHWHを如何に発声するか、というアイディアで突っ走った長編。もちろん発想は面白いんだけれども、短篇にしたほう、それにマリオンがいまいち掘り下げられていない。2014/05/30
Yasu
9
このストーリーどこかで読んだかどこかで観たんだよね。物質の本当の名前を呼ぶとその物自体を支配出来るというの。読みながらずっと考えてたんだけど思い出せない。ストーリー自体はすんなり入って来たけど、もう少し怪奇的な展開があるかと期待したがそうはならずちょっと残念。最後は人間を超えた存在になるよりも愛が勝るという事です(笑)2016/04/19