内容説明
死んでから作家となった書き手がつづる、とんでもなくもおかしい、かなしくも心いやされる物語。カバにさらわれ、始原の世紀へとさかのぼった書き手がそこで見たものは…。ありふれた「不倫話」のなかに、読者をたぶらかすさまざまな仕掛けが施される。南米文学の秘められた大傑作。
著者等紹介
ジ・アシス,マシャード[ジアシス,マシャード][De Assis,Machado]
1839‐1908。ブラジルを代表する作家。第二帝政期の奴隷制度が敷かれたリオデジャネイロの貧しい家庭で育つ。独学で、書店や印刷所で働きながら詩人として文壇にデビュー。新聞の時評、詩、戯曲、短・長編小説、翻訳など、手がけたジャンルは多岐にわたる。ブラジル文学アカデミーの初代会長を務めた
武田千香[タケダチカ]
東京外国語大学教員。文学を中心にブラジルの文化を研究する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
145
重いテーマを扱うのに、直接に斬り込んでいくのではなく、日常に紛れ込ませ、メタファーを用いながら語っていく手法。お葬式から始まるそのストーリー。語り手が死人であるから、どんな話かと思ったら、さらりと時系列に読みやすかった。大変に長い解説において、この作品がもつ奇抜さや工夫、技巧などが説明され、本国においてそれが軽視されている残念さが語られているが、解説がなくては伝わらないようなら、読んだ人自らが能動的に知ろうとするのでなれけば、それは意味がないと思った←これは、解説者への物言いです。2017/05/01
KAZOO
125
「ドン・カズムッホ」に引き続いてのブラジル作家の本です。これも同じように比較的読みやすく章が160にもなっています。やはり死んでから作家となった人物の話なのでユーモア小説の部類に入るのでしょうか?私は読んでいて比較的楽しく過ごせました。セルバンテスの影響を受けているということですがわかるような気がしました。2016/05/05
まふ
116
アシスの代表作、というよりもブラジル文学最高峰とされる作品。主人公ブラス・クーバスが64歳の未婚のまま肺炎で死ぬにあたって自分の生涯を回想する。裕福な家庭に生まれた主人公は気ままな学生生活を経てこれという職業もないまま美しい既婚の夫人と道ならぬ恋をして実らず、老年を迎え死んでゆく、という変哲もない一生であるが、語られる言葉は示唆に富む。全体が160章という細かい章に分かれ有機的な全体を構成し、不思議な余韻を残して終わる。何となく夢の世界に迷い込んだようで満たされた気分になった。名作である。G1000。2023/08/30
NAO
60
ブラス・クーバスが死後対面したパンドラは、「わたしには、エゴイズム、自己保存以外の掟はない」という。そのパンドラに飲み込まれることを望んだブラス・クーバスは善悪をはじめとする人間社会に必要なありとあらゆる制約から解き放たれ何の後悔も羞恥心もなく自らの過去を語っているため、そこには暗さや重苦しさがない。そうやってブラス・クーバスの生涯を描きながら、作者はブラジルの人々の生活ぶりを混ぜ込んでいくのだが、彼らの息遣いのなんとリアルなことか。マシャード・ジ・アシス自身もまた、貧しい階級の出だったという。2024/09/05
扉のこちら側
60
2017年78冊め。【271/G1000】タイトル通り死後に生前の自分を回想している話。あらすじにある通り、ブラス・クーバスがカバに背に乗せられて諸世紀を遡っていく展開あたりから面白くなる。ここでの「彼女」との出会いによって彼は死後に作家となり人生を再構築するわけである。断章形式で160章もあるのだが読みやすく楽しめた。2017/01/24