内容説明
天才科学者フランケンシュタインは生命の秘密を探り当て、ついに人造人間を生み出すことに成功する。しかし誕生した生物は、その醜悪な姿のためフランケンシュタインに見捨てられる。やがて知性と感情を獲得した「怪物」は、人間の理解と愛を求めるが、拒絶され疎外されて…。若き女性作家が書いた最も哀切な“怪奇小説”。
著者等紹介
シェリー,メアリー[シェリー,メアリー][Shelley,Mary]
1797‐1851。イギリスの女性小説家。急進的自由主義者の父ウィリアム・ゴドウィン、女性解放を唱えた思想家の母メアリー・ウルストンクラフトのあいだに一人娘として生まれる。出産後数日で母は他界し、継母に育てられる。1814年、当時のイギリスを代表する詩人シェリーと出会い、’16年に彼の妻が亡くなると、正式に結婚。’22年の夫の死後は相次ぐ子どもの死や経済的困窮などに見舞われる。未亡人となってからの旺盛な執筆活動は、生活費や子どもの学費を得る目的もあった
小林章夫[コバヤシアキオ]
1949年東京生まれ。上智大学文学部英文学科教授。専攻の18世紀イギリス文学を中心に近代イギリスの文学・文化を多角的に研究する。’85年、ヨゼフ・ロゲンドルフ賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
155
作者のシェリーが19歳の時、作家の夫とその友人の詩人のバイロンと旅行中に、テーマを決めて小説を書こうとした約束。それを彼女だけが守って、1年後にこれを書き上げた。それができた作者がまず怪物ではないか。フランケンシュタインという作品を通じて、20才の女性は何かを強く訴えようとしたのだろうか。それとも単になにかスゴイものを書こうとおもっただけなのだろうか。人とは?生きるとは?また命を産み出す側の責任とは? 作品が問いかけるものは大きい。フランケンシュタインが創り出したものが終始かわいそうでならなかった。2016/10/04
夜間飛行
153
科学の責任を問う先駆的な作品だが、親と子の悲しい物語でもある。人を殺す前からすでに罪の烙印を押され追放されていた怪物の心を、生みの親たるフランケンシュタインが理解しなければなるまい。それが親の義務だと思う。彼は怪物が伴侶を求めた時初めて、愛してはないにせよ向き合おうとしている。21世紀にはすでにアトムもゴジラも原発あるから、我々はこのような科学的な責任と親の責任の重なり合いにそれほど驚かない。けれども、当時の人々は創造主の責任の一端を人間が担うという話に、ただの恐怖小説以上の衝撃を受けたのではなかろうか。2014/03/14
buchipanda3
123
かの有名な怪奇小説は19世紀初頭に描かれたのだそうだ。結構な昔の作品だが、読んでみると中身は今でも色々と考えを巡らせてしまうほど興味深いものだった。それはホラーというよりも人間が生み出した悲劇という感じ。最も印象に残ったのは怪物が人々の目から逃れ隠れている時の出来事を語る場面。映画などのイメージと違い、その怪物は自分の複雑な心境を言葉で見事に表現する。誰にも理解されない孤立と恐怖、そして葛藤。そのあまりにも人間的な姿に一体どちらが怪物なのかと。本当に怪物を生み出したのは何か。ふたりの行く末は何とも切ない。2022/07/23
優希
114
シュールでした。フランケンシュタインというと、怪物の名前を連想しますが、造った側だったというのをはじめて知りました。生命の秘密を見つけ出し、人造人間を生み出したフランケンシュタイン。人ならざる「怪物」が知性を感情を持ったことで見た人間の世界は醜いものに見えます。人間とはいかに卑劣で愚かなものなのか。理解と愛を求めた「怪物」の運命は拒絶と疎外しかなかったのが哀愁を漂わせていました。それ故に抱いた憎悪。フランケンシュタインの残酷な仕打ちは、「怪物」と人間の関係をそのままうつしだしているように思います。2016/05/10
アナーキー靴下
96
読み始めはヴィクターの無責任さが耐え難かったが、責任放棄による利がなく、むしろ責任を背負いたいがために逃げているようにさえ見えてきた。己自身の影に怯える物語のように。自分は善なる者であり、一点の邪さも認めない。自分を取り囲む世界も善であり、悪など存在しない。そうやって目を背けてきたものすべてが、生み出した怪物に投影される。名家の生まれ、慈愛に満ちた家族。物質的にも精神的にも恵まれた環境、しかし世の中には貧しさが溢れている。その矛盾にどう折り合いをつければ、すべての人間が善のうちにあると信じられるだろうか。2022/03/31