内容説明
中年のしがない下級役人マカールと、天涯孤独な娘ワルワーラ。二人は毎日手紙で励ましあい、貧しさに耐えている。互いの存在だけを頼りに社会の最底辺で必死に生きる二人に、ある日人生の大きな岐路が訪れる…。後のドストエフスキー文学のすべての萌芽がここにある。著者24歳のデビュー作、鮮烈な新訳。
著者等紹介
ドストエフスキー,フョードル・ミハイロヴィチ[ドストエフスキー,フョードルミハイロヴィチ][Достоевский,Ф.М.]
1821‐1881。ロシア帝政末期の作家。60年の生涯のうち、巨大な作品群を残した。ニヒリズム、無神論との葛藤を経て、キリストを理想とした全一的世界観の獲得に至る。日本を含む世界の文学に、空前絶後の影響を与えた
安岡治子[ヤスオカハルコ]
1956年生まれ。東京大学大学院教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
110
テンション高い系の市井の人々が唾飛ばしながら語りかけてくるドストエフスキーの処女作。読んでみて余りの昏さに絶句。社会の最底辺でもがきながらも互いを手紙で励まし合う親子のような二人。しかし、相手に相応しい人間になろう、助けたいと思い、無理に背伸びし、借金するマカールを周囲は嘲笑い、マカールの援助がワルワーラの自尊心を削っていく。この、貧しさや頑張る人に対する人々の物見高く、冷ややかな視線と憐憫の苦さ、何もかも無にするか、金を得るかを無情に迫る社会は変わったのか。否。それが読後をより一層、重苦しくさせている。2018/10/28
kazi
55
読みました。大文豪ドストエフスキーが華々しく文壇デビューを果たした「貧しき人々」。雑誌編集者ネクラーソフと著名な批評家であったベリンスキーは今作を読んで「新しいゴーゴリが現れた」と大絶賛したそうです。デビュー作から凄いな~(^▽^;) 物語は初老の小役人マーカルとみなしごの少女ワーレンカの往復書簡という形式になっており、お互いが身の回りで起こった出来事を連絡しあう形で話が進みます。2021/01/06
著者の生き様を学ぶ庵さん
50
ドストエフスキーのデビュー作。老人とお嬢さんの往復書簡形式のロシア式貧乏小説。いかにもロシアらしい重苦しさが2人の貧乏生活を通して伝わってくる。2人の間は、極度の貧乏と大袈裟に相手を思いやる純愛と回りくどい手紙で埋め尽くされているが、最後に貧乏なお嬢さんは下衆な小金持ちに求婚され、貧乏生活から脱出するとともに物欲を身に纏う。24歳にしていかにもロシア的な作品を発表したドストエフスキーは、20代で既に文豪の片鱗を感じさせる。重々しいなあ、ロシア小説は。たまには良いが、どっぷり浸かると普段の世界に帰れない。2016/09/13
巨峰
50
文豪の処女作にて瑞々しい書簡体小説。貧しい老いた小役人と身寄りのない少女が交わす手紙のやり取り。お金にも名誉にも縁のない2人だが、信頼しあっている2人は、いくら貧乏で、いくら不幸であっても、けっして孤独ではないなと思った。それがよかった。中盤から後半にかけての貧乏が貧乏を、不幸が不幸を呼ぶ展開が恐ろしかった。しかし、マカールはなんて純粋なのだろう。2010/10/10
ぺったらぺたら子
35
極貧中年ダメ男と薄幸な少女。予め恋愛が成立し得ない組み合わせであることにより、恋愛から恋を引いて愛となった、その状態による高まり。悲劇の最大の原因は、やはりそれが恋愛であることを認め、宣言できなかった弱さ。でも、もし宣言出来てしまえば単にありきたりな貧乏家庭が出来上がるだけで、あれほど緊密な愛情は育ちはしなかったろうとも思う。ここまで過剰に不様で滑稽な2人を創造してまで伝えられたメッセージとは、人は一人では生きていけない、与える事なしには生きられない、そして二人居れば世界が出来る、という事なんだろうな。2021/04/24