内容説明
周囲の期待を一身に背負い猛勉強の末、神学校に合格したハンス。しかし厳しい学校生活になじめず、学業からも落ちこぼれ、故郷で機械工として新たな人生を始める…。地方出身の一人の優等生が、思春期の孤独と苦しみの果てに破滅へと至る姿を描いたヘッセの自伝的物語。
著者等紹介
ヘッセ,ヘルマン[ヘッセ,ヘルマン][Hesse,Hermann]
1877‐1962。ドイツの作家。両親はキリスト教伝道者。神学校に進むが学校生活になじめず、神経を病み退学。その後も高校を退学、3日で書店を退織職するなど挫折を繰り返す。しかし独学で勉強し、27歳で出した初めての小説『ペーター・カーメンツィント』で成功を収め、有名作家となる。主な作品に『車輪の下で』『デーミアン』。1946年ノーベル文学賞受賞。1962年脳内出血のため自宅で睡眠中に死去
松永美穂[マツナガミホ]
東京大学大学院人文社会研究科博士課程満期単位取得。早稲田大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おか
50
十代の頃に読んだ時は まあ自分が受験勉強していた時なので「「余り勉強し過ぎて 心身が壊れるの嫌かも 」と勉強しない良い言い訳を見つけた!みたいな感があった 笑。今回読んで 一番感じたのは ヘッセの自然描写の巧みさ。ハンスの目を通して 体を通して感じられる 空 木々 風 等まるで自分が感じられる様な描写であった。この小説はヘッセが自分の体験を語ったもののようだが ヘッセ自身はハンスの様に壊れることもなく きっちり著作として表現している。若い頃はこのハンスの最後に憧れ、自分にもこんな最後をと思ったものだ笑2017/04/20
ワッピー
43
読書会課題検討本として。40年間延期してきたものの、ついに年貢の収め時。秀才がエリートの通う神学校に進学したものの、次第に学問から乖離し、ついに退学となって地元で職人の道に入るも、女に振られ、大酒を飲んだ挙句に溺死する落ちこぼれ話のように見えますが、美しい自然描写を背景に思春期の危うい精神バランスが崩れてしまった少年の苦悩を描いた名作です。この本は若い人向けに薦められることが多いと思いますが、生きることの懊悩と美しさをわかってからでもいい気がします。勉学に励め!なんてつまらないメッセージはいりません。2019/02/05
ころこ
41
ハンスと目線が同じなので、中高生が読みがちなのはよく分かります。最初と最後の周囲の大人の反応に教育に対する教訓を見出すことも可能です。とはいえ、名作だといわれることで世界がこの様な子供時代の想像力に納まっているという誤解を与えかねないのかなとも思います。ヘッセの自伝的な小説のようで、こうなってもおかしくない、あり得た別の自分をみているのでしょう。しかし、小説家として成功して何者かになった自分と均衡するために、若くして死ぬことで何者かになるというロマン主義的な解答に疑問を持たないのも、また子供時代までです。2021/11/15
ニクロム
36
ハンスには才能があり、その才能ゆえに周囲から大きな期待を寄せられる。あるべき姿を要求してくる他者の目がハンスには強く内面化されている。疑問を持たずに期待に応えられたときはまだいい。しかし、一度疑問を持ってしまうと、自己と他者が自分の中で対立することになる。そういう葛藤は結構キツい。自分の存在意義がぐらついてしまうから。僕自身苦しんだ経験があるし、他にもたくさんのハンスがいるだろう。結末は大人のエゴを痛感させる悲劇だが、現実の少年は負けるわけにはいかないのだ。読みながら高橋優の「少年であれ」が頭に浮かんだ。2015/07/05
いりあ
31
ヘッセが1905年に発表した自身の学生時代を描いた自伝的な長編小説。初めて読んだのは、中学生の頃に新潮文庫から出ている高橋健二訳でしたが、今回は新訳で。しかし、100年以上前の作品が、今も読む度に新しい感動を生みだすという持っている力に本当に驚かされる。ハンスの周りにいた大人たちがもっと色々なサインに気づいていれば、彼は死なずに済んだんだろうと思うとやるせない気持ちになる。新訳はかなり読みやすいので多くの人に読まれると良いな。とは言うものの、四苦八苦しながら、あえて旧訳で読むという選択肢も面白いと思う。2014/11/24